2023 Fiscal Year Research-status Report
植物のストレス応答と成長のトレードオフ制御における細胞内シグナル伝達機構の解析
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23K14209
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大西 真理 名古屋大学, 理学研究科, 助教 (50377793)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ペプチドホルモン / 受容体キナーゼ / ストレス応答 / 細胞内情報伝達 / トレードオフ / シロイヌナズナ |
Outline of Annual Research Achievements |
移動できない植物にとって自身を取り巻く環境にいかに迅速に適応しつつ、限りあるエネルギーを有効に利用するかは非常に重要な課題である。ストレス応答には成長に使われるエネルギーの一部が利用されるため、ストレス応答と成長はトレードオフの関係にある。ペプチドホルモンのPSYとその受容体のPSYRはこのトレードオフのバランス制御を行っており、PSYRはPSYペプチドが存在しないときにストレス応答を誘導し、PSYペプチドが結合するとそれが抑制される。PSYとPSYRは恒常的に発現しているため、通常状態ではストレス応答が常に抑制され、成長にエネルギーが使われているが、PSYペプチドが生産されなくなるような状態になると自動的にストレス応答が誘導される。本研究では、この植物によるトレードオフの解明のため、PSY-PSYRの下流の細胞内情報伝達メカニズムを明らかにすることを目的としている。 本年度はまず、免疫沈降によるPSYペプチド投与によりPSYRとの相互作用が変化する因子の探索を行った。GFP融合受容体PSYR-GFPを発現させた植物を用い、30分のPSY処理の有無により結合に変化があるタンパク質を網羅的に解析した。免疫沈降を独立して3回行い、共通してPSY処理により相互作用が上昇するタンパク質が2つ、減少するタンパク質ファミリーが8つ得られた。また、PSYRが受容体キナーゼであることから、その下流ではリン酸化反応による制御が行われていると考えられるため、PSYペプチド処理によりリン酸化状態が変化するタンパク質を安定同位体窒素を用いた定量比較リン酸化プロテオミクスによる探索を行った。その結果、PSYペプチド30分処理でリン酸化が上昇したタンパク質が6つ、減少したタンパク質が18つ得られた。候補タンパク質の変異株を入手し、その表現型およびPSYペプチドへの応答の変化の観察を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、免疫沈降と安定同位体窒素を用いた定量比較リン酸化プロテオミクスを複数回行い、それぞれPSY-PSYRの下流因子候補となるタンパク質を得ることができた。 また、候補タンパク質の遺伝子欠損株を入手し、表現型解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
免疫沈降に関しては、PSYペプチド処理で変動する数がかなり多かったことから、本年度は変動が大きかったもののうち、ファミリー内で同様に変動しているものを候補として解析を進めた。今後は更に候補を得るため、実験数やLC-MS/MSの測定回数を増やすことにより、より確実性を高めた絞り込みを行う。また、得られた候補タンパク質の遺伝子欠損株を入手し、PSY投与によるストレス応答遺伝子の発現変動に影響が見られるものを探していく。 定量比較リン酸化プロテオミクスに関しても、実験数を重ねて再現性を確認すると共に、候補タンパク質に関してはリン酸化状態が変化したアミノ酸の疑似リン酸化・疑似非リン酸化体を作成し、表現型やPSYペプチド投与による影響の変化があるかを検証していく。
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Causes of Carryover |
本年度の実験は在庫試薬の使用でまかなえたため、物品費の使用が発生しなかった。今後、候補タンパク質の欠損株の検討にはqRT-PCRやトランスクリプトームなど費用が多く必要な実験が必要となるため、そちらで使用する予定である。
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