2023 Fiscal Year Research-status Report
送粉キノコバエ相の地理的不均一性はサトイモ科テンナンショウ属の種分化を促進するか
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23K14252
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
松本 哲也 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 助教 (80876243)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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Keywords | テンナンショウ属 / 送粉者シフト / 種分化 / 生殖的隔離 / 生物多様性 / 分類 / 隠蔽種 / 適応放散 |
Outline of Annual Research Achievements |
サトイモ科テンナンショウ属は日本列島で急速に多様化した分類群であり,複数種が混生する状況では種ごとに異なる送粉者が訪花するため,新たな送粉者への適応 (送粉者シフト) が生殖的隔離として機能することで種分化を引き起こした可能性が高い.送粉者シフトを駆動する要因の一つに,送粉者相の地理的不均一性が挙げられる.なぜなら,ある植物が分布域を拡大した際,もともと利用していた送粉者が存在しない移住先では,そこで利用可能な新たな送粉者への適応が促進されるからである.テンナンショウ属の送粉者であるキノコバエ類は,地域や植生によって種組成が大きく変化するため,「場所ごとに異なるキノコバエ相が送粉者シフトを促進し,テンナンショウ属を多様化させた」ことが予想される.この仮説を検証するため,まず広域分布種であるミミガタテンナンショウとカントウマムシグサに焦点を当て,2種の分布域内で広く訪花昆虫を採取することで,送粉者の異なる種分化初期の集団 (送粉者タイプ) が種内に存在するか検証する.つぎに,発見された送粉者タイプの分布が送粉者の分布と一致する (= 送粉者相の不均一性が種分化を駆動したことを示唆) か検証するため,各送粉者タイプの相互移植実験を行って訪花昆虫相を調査する.2023年は,茨城県北部から中部にかけて,ミミガタテンナンショウ8集団94個体,カントウマムシグサ12集団140個体の訪花昆虫を採取した.その結果,ミミガタテンナンショウはどの地域でも雑多なハエ目昆虫を誘引するジェネラリスト的な送粉様式を持っていた一方で,カントウマムシグサは特定のキノコバエのみを誘引するスペシャリスト的傾向が強く,県北部と中部では明瞭に訪花キノコバエ相が異なっていた.したがって,2024年以降はカントウマムシグサに焦点を当てて研究を進める.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請段階では,予備調査によって送粉者タイプが複数存在する可能性が強く示唆されている中国山地の種を対象に研究を行う予定であったが,その後,研究代表者の関東への異動によって当該種の現地調査を実施することが困難になった.したがって,新たに調査候補種の選定からやり直す必要が生じたため,全体的に進捗が遅れている.ただし,2023年の調査では,茨城県北部から中部のカントウマムシグサ12集団から2つの送粉者タイプが見いだされており,本研究の調査対象種として相応しいと思われる.
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Strategy for Future Research Activity |
2023年に見いだされた2つの送粉者タイプは,先行研究で訪花昆虫相が調べられている千葉県のカントウマムシグサとは明らかに異なる送粉者を誘引していた.このことは,千葉県に接する茨城県南部には別の送粉者タイプが存在している可能性を示唆している.したがって2024年度は,前年に調査範囲としなかった茨城県中部から南部にかけてカントウマムシグサの訪花昆虫を採取することで,送粉者タイプの探索を拡大・継続する.そして2年間の結果に基づき,茨城県内における各送粉者タイプの分布域を推定し,相互移植実験を実施する場所の選定を進めていく予定である.
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Causes of Carryover |
残額101円をちょうど使い切る方途を思いつかなかったため.次年度の予算と併せ,適切に使用する.
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