2023 Fiscal Year Research-status Report
霊長類の錯視知覚を解読する行動実験系を用いた、神経活動―視知覚間の因果関係の解明
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23K14299
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
橋本 昂之 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 助教 (10965742)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | MT/MST / 眼球運動 / マーモセット |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、非ヒト霊長類であるマーモセットにおいて、マーモセットが運動残効とよばれる錯視を知覚しているかどうかを実験的に計測するための行動実験系を開発し、大脳皮質MT/MST野の神経活動と運動残効の因果関係を解明することである。運動残効とは、動く視覚刺激を数十秒間観察した後で静止画を見ると、静止画が直前まで観察していた動きと逆向きに動いて知覚される錯視である。申請者はこれまでマーモセット視覚野の広域・二光子カルシウムイメージングを用いて運動残効の神経基盤について研究を行ってきた。神経活動の解析結果から、MT/MST野が運動残効に関与する可能性が示唆された。しかしながら、マーモセットが運動残効を知覚しているかどうかを計測できる行動実験系が存在しないため、MT/MST野の神経活動と運動残効の直接的な関係性は未解明であった。過去のヒトの心理物理学研究から、運動残効が知覚されるときに、運動残効と同じ方向への眼球運動が起こることが報告されている(Doris I. Braun, et al., 2006)。運動残効を知覚しているときに起こる眼球運動の振幅は主観的な錯視の強さと相関しており、眼球運動を錯視知覚の近似的指標として利用できる可能性が示唆された。本研究ではこのヒト心理物理学研究の知見をマーモセットに応用することで、マーモセットがヒトと同様に運動残効を知覚するかどうかを検証した。まず、覚醒下のマーモセットの正面に視覚刺激提示用モニタを設置し、動き刺激を提示しながら同時にマーモセットの眼球運動を計測した。刺激呈示前後の眼球運動を解析したところ、動き刺激終了直後、運動残効が発生するタイミングにおいて、運動残効と同じ方向への眼球運動が発生することがわかった。このことから、マーモセットにおいて、眼球運動計測を用いて運動残効を計測できる可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、覚醒下のマーモセットに視覚刺激(ドットモーション刺激)を呈示しながら、カメラを用いて眼球の動画を撮影する実験系を構築した。実験で得られた動画から眼球運動の時系列データを取得するために、深層学習ベースの眼球運動検出プログラムを用いた。動き刺激呈示前後のマーモセットの眼球運動を解析したところ、動き刺激終了直後、運動残効が発生するタイミングにおいて、運動残効と同じ方向への眼球運動が発生することがわかった。この実験結果から、マーモセットにおいて、眼球運動計測を用いて運動残効を計測できる可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までに、覚醒下マーモセットに視覚刺激を呈示し、眼球運動を計測する実験系の立ち上げを完了したため、次年度は、開発した眼球運動計測実験とMT/MST野の神経活動操作実験を組み合わせる。具体的には、まず、広域カルシウムイメージングを用いて、脳の両半球のMT/MST野を同定する。次に、同定したMT/MST野にムシモルを導入し、薬理学的にMT/MST野の神経活動を抑制する手法を確立する。さらに、MT/MST野の薬理学的抑制実験と眼球運動計測実験を組み合わせることで、MT/MST野の神経活動が運動残効に対応する眼球運動に重要かどうかを検証する。
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Causes of Carryover |
本年度は大きなトラブルなく当初の想定通りに研究が進み、行動実験や手術に必要な消耗品を節約することができた。このことから、本年度支給額の3.86%の次年度使用額が生じた。
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