2023 Fiscal Year Research-status Report
タンデム型プロドラッグ活性化によるがん細胞内選択的な薬物治療法の開発
Project/Area Number |
23K14316
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小関 良卓 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (80780634)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ドラッグデリバリーシステム / 有機合成 / プロドラッグ / 抗がん剤 |
Outline of Annual Research Achievements |
がん細胞内や腫瘍組織に高濃度に存在する、活性酸素種、グルタチオン、β-ガラクトシダーゼ、水素イオン(低pH)等の化学的な刺激のうち、いずれか1つの刺激に応答したプロドラッグ設計が数多く報告されているが、単一の刺激では正常細胞との差別化が困難である。また、複数の刺激応答を利用するプロドラッグでは、刺激の種類毎に刺激応答性置換基を組み込んだ、いわば万能ナイフのような分子設計が報告されているが、このような設計の場合、薬物以外の成分の割合が大きくなる。一方、本研究で取り組むタンデム型プロドラッグでは逐次的な反応によりプロドラッグの活性化が可能であるため、有効成分以外の置換基の割合を削減した分子設計が可能となる。今年度はタンデム型プロドラッグ分子の合成を行った。本プロドラッグはヒドロキシ基を有する抗がん剤と刺激応答性置換基をエーテル結合により連結させた分子であり、活性酸素種による変換と続くグルタチオンとの反応により生じたフェノールの電子供与性により抗がん剤が放出される。実際に、抗がん剤としてSN-38を用いて、グルタチオンと反応可能なプロドラッグ中間体の合成に成功した。合成したSN-38プロドラッグ中間体の薬物放出性を評価するために、リン酸緩衝生理食塩水中にてグルタチオンを添加したところ、速やかにSN-38分子が放出されることを確認した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
重要中間体の合成が完了し、グルタチオンの添加により薬物放出が起こることを確認できた。一方、当初の予想に反して、プロドラッグの合成法の確立に時間を要したため、薬理効果の評価は次年度に持ち越しとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究では、タンデム型プロドラッグ分子の合成、ナノ・プロドラッグの作製、薬物放出性の評価、in vivo薬理活性評価を行う予定である。薬物放出性試験では、作製したナノ・プロドラッグの薬物放出性をROSおよびGSHの添加実験により検証する。設計通りの挙動を示す場合、本ナノ・プロドラッグはROS、GSHの両方が薬物を放出するために必要となる。また、腫瘍組織、および腎臓、肝臓等の正常組織をホモジナイズした破砕物を用いて、ex vivoにおける薬物放出性を評価する。組織破砕物とナノ・プロドラッグを混合後、SN-38プロドラッグおよびSN-38の量をHPLC-MS/MS分析により経時的に定量し、腫瘍組織内で選択的に薬物放出が起こることを証明する。in vivo薬理活性を明らかにするために、本研究では膵がん由来のがん細胞により調製したモデルマウスによる評価を行う。膵がんは腫瘍組織の線維化が強く、薬剤の到達性が特に大きな課題となっている疾患である。作製したナノ・プロドラッグをモデルマウスへ尾静脈注射により投与後、腫瘍の経時的な体積変化を指標に抗腫瘍活性を評価し、SN-38の関連物質で実用化されている塩酸イリノテカンと比較して高い活性を示すことを確認する。
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Causes of Carryover |
本年度中にプロドラッグ分子の合成を完了し、薬理活性評価を行う予定であった。しかしながら、当初の予想に反してプロドラッグ分子の合成法の確立に時間を要したため、薬理効果評価は次年度に持ち越しとなった。次年度は、速やかにプロドラッグ分子の合成を完了し、細胞実験、動物実験による薬理効果の評価を実施する。
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