2023 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質中アミノ酸残基の網羅的キラル識別分析と加齢性疾患の診断・治療への展開
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23K14335
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
石井 千晴 九州大学, 薬学研究院, 助教 (90905308)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 加齢性疾患 / タンパク質 / アミノ酸残基異性化 / 多次元HPLC / 質量分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
アミノ酸残基異性化(D化)はタンパク質の構造・機能変化を惹起するため、タンパク質の変性・凝集を伴う加齢性疾患(白内障・アルツハイマー病等)との関連が注目されている。しかし、従来の報告では解析対象アミノ酸が限定されており、疾患の診断および治療領域における異性化残基の価値探索に向けて網羅的分析法の開発・利用が切望されている。本研究の目的は、タンパク質中D-アミノ酸残基の網羅的精密分析法を世界で初めて開発し、加齢性疾患における新規診断指標・治療標的の探索を通して人々の健康寿命延伸に貢献することである。研究期間中には、装置開発と併せて劣化モデルタンパク質の作製や臨床検体の収集・分析を進め、異性化残基のスクリーニングを行う。 予備検討の結果、重塩酸加水分解と二次元HPLC (逆相HPLCによるアミノ酸の粗精製とキラルHPLCによるDL分離)および質量分析を統合することで、従来法の課題であった分析対象アミノ酸残基の網羅性不足および測定値の正確性不足を解決可能であると期待された。そこで2023年度は分析対象を拡大するため、様々なタンパク質構成アミノ酸について各次元の分離・検出条件を精査した。所属研究室が独自に開発している固定相を駆使した結果、これまで分析に課題を有していたヒスチジンやアルギニン、ロイシン連鎖異性体を含め、様々なアミノ酸について微量なD体の定量を可能とする良好な分離条件を見出した。 また、タンパク質は様々な環境刺激(紫外線照射やpH・温度変化、酸化ストレス等)により劣化し、構造変化すると考えられる。2023年度は、加齢とともに生体内で蓄積する酸化ストレスに焦点を当て、活性酸素種への曝露により劣化モデルタンパク質を作製した。代表的なアミノ酸残基(アスパラギン酸、アラニン、セリン)について異性化解析を行った結果、D-アスパラギン酸残基の増加傾向が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本年度は分析対象を拡大するため、幅広いタンパク質構成アミノ酸について多次元LCにおける各次元の分離条件を精査した。特に光学分割を行う次元では所属研究室独自の様々な固定相を用いた検討を行い、これまで分析に課題を有していたアミノ酸(アルギニン、ヒスチジン等)についても鏡像異性体の良好な分離を達成した(第35回バイオメディカル分析科学シンポジウム、日本分析化学会第72年会で発表)。また、構造が類似しており、キラルを識別した相互分離が困難なロイシン連鎖異性体(ロイシン、イソロイシン、アロイソロイシン)についても、逆相分離および光学分割条件を精査した。その結果、新たに構築した多次元LCシステムで6種の異性体を良好に識別可能であり、正確な微量分析を達成した(第35回バイオメディカル分析科学シンポジウムで発表)。これらのアミノ酸について、今後は加水分解による前処理ならびに質量分析を統合することで、タンパク質における当該残基のキラル識別定量が期待される。 実際の劣化・病変タンパク質におけるアミノ酸残基の異性化解析を行うため、D型残基の報告例を考慮してアスパラギン酸、アラニンおよびセリン残基について二次元LC-MS/MS一斉分析法を構築した。本分析法を用いて、活性酸素種への曝露により作製した劣化モデルタンパク質中におけるアミノ酸残基の異性化解析を行った結果、アスパラギン酸についてD型残基の増加傾向が確認された(第31回クロマトグラフィーシンポジウムで発表予定)。 以上より、本研究は当初の計画以上に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度までに、分析に課題を有していたヒスチジン、アルギニンおよびロイシン連鎖異性体を含め、様々なアミノ酸を対象として多次元LC法における分離条件を精査した。今後、所属研究室が独自に開発している固定相を駆使して、すべてのタンパク質構成アミノ酸を対象とする二次元LC-MS/MS法の開発を進める。併せてモデルペプチド・タンパク質におけるアミノ酸残基の解析に適用し、分析法の評価を行う。加水分解時の回収率低下が懸念されるアミノ酸残基(トリプトファン、チロシン等)については、加水分解条件や他の前処理法を検討する。 活性酸素種への曝露により作製した劣化モデルタンパク質では、D-アスパラギン酸残基の増加傾向が認められており、今後は様々な劣化加速条件における異性化の有無、D型残基の含量変動を解析する。臨床検体としては、九州大学病院眼科および循環器内科の協力を受け、加齢性疾患(白内障、動脈硬化等)における病変タンパク質を引き続き収集し、アミノ酸残基のキラル識別スクリーニングを行う。また、申請者らが飼育していた老齢マウス(20-30ヶ月齢)から水晶体および大動脈を採取済みであり、今後これらの加齢組織に内在するタンパク質に対してもD-アミノ酸残基のスクリーニングを行う。 当該研究領域では、アスパラギン酸残基の異性化に関する報告が殆どであり、様々なタンパク質構成アミノ酸を対象とするD型残基の正確なスクリーニングは行われていない。本研究により開発する網羅的精密分析法を利用することで、異性化アミノ酸残基を切り口とした加齢性疾患の診断・治療標的の探索が強く期待される。
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Causes of Carryover |
HPLC溶媒について、今年度は実験結果と価格のバランスを考慮し、より安価なメタノールの使用量を増やした。また、HPLCの消耗品交換回数が予想より少なく済み、物品費の執行額が予算を下回った。次年度以降は多様な試料の測定を行うため、使用溶媒の微調整や各種HPLC部品の消耗が予想される。今年度の未使用額については次年度に繰り越し、引き続き物品費として使用予定である。
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[Journal Article] Development of a three-dimensional HPLC system for the determination of serine, threonine and allo-threonine enantiomers in the plasma of patients with chronic kidney disease2024
Author(s)
Mai OYAIDE, Chiharu ISHII, Takeyuki AKITA, Tomonori KIMURA, Shinsuke SAKAI, Masayuki MIZUI, Masashi MITA, Tomomi IDE, Yoshitaka ISAKA, Kenji HAMASE
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Journal Title
Journal of Chromatography A
Volume: 1719
Pages: 464739
DOI
Peer Reviewed
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