2023 Fiscal Year Research-status Report
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23K14350
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Research Institution | Iryo Sosei University |
Principal Investigator |
野尻 光希 医療創生大学, 薬学部, 客員研究員 (60971124)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ビタミンD / ノンコーディングRNA / エンハンサーRNA / クロマチン免疫沈降 / ヒストン脱アセチル化酵素 / エピゲノム / 薬物代謝酵素 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ビタミンDおよびビタミンD受容体(VDR)がどのようにして活性化型ビタミンDを不活性化するCYP24A1の遺伝子発現を制御しているかを明らかにすることを目的に解析を行う。CYP24A1は基質となる活性化型ビタミンDそれ自体により発現調節を受ける薬物代謝酵素であるため、ビタミンDによるCYP24A1の遺伝子発現制御機構の解明は、薬物代謝酵素の薬物基質誘導性転写制御機構を解明するのに非常に適したモデルである。薬物代謝酵素の遺伝子発現制御機構を解明することは、薬物の代謝制御や薬効、薬物動態、副作用を理解する上で非常に重要であり、その点において本研究が果たす役割は非常に大きいと考えられる。 CYP24A1はビタミンDによって非常に迅速かつ劇的に遺伝子発現が亢進する薬物代謝酵素であり、その発現調節の過敏さからエンハンサーが密に集まった領域であるスーパーエンハンサー領域から発現されるノンコーディングRNAの一種であるエンハンサーRNAが寄与していると考えられる。これまで、VDRがノンコーディングRNAの転写制御の分子基盤については明らかとされていない。さらに、ビタミンDが標的とするエンハンサーRNAについても不明な点が多く残されており、本研究によってビタミンDが標的とするノンコーディングRNAおよびエンハンサーRNAの同定と機能解析をすることで、遺伝子発現制御機構において新たな転写制御因子を発見できることが期待される。 初年度では、ヒストン脱アセチル化酵素の阻害剤を用いた解析が大きく進行し、VDRによる遺伝子発現制御機構に関わるヒストン脱アセチル化酵素を同定した。これは、ヒストン脱アセチル化酵素が転写促進に寄与するというこれまでの定説とは異なる転写制御を解明する一助となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究では、何よりビタミンD受容体(VDR)抗体を用いたクロマチン免疫沈降(ChIP)の確立が必須であり、それには多くの時間を要すると考えていた。そのため、初年度にはまずヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を用いた実験に注力し、CYP24A1遺伝子発現制御に関与するHDACクラスの同定を行うことが最優先課題であると考えていた。これまでに、数種類のHDAC選択的阻害剤を用いたCYP24A1遺伝子発現解析により、当初の目標であったHDACクラスの同定に成功し、さらに詳細なHDACサブファミリーの同定に大きく近づいた。そのため、初年度の目標はひとまず達成できている。さらに、VDR抗体を用いたChIP-seq解析が本研究における大きな必要課題であるが、これまでにまずCYP24A1遺伝子座周辺におけるChIP-qPCRを確立し、続けてChIP-seq解析にも着手することができた。これは当初の進捗予定を大きく上回るものであり、本研究は当初の計画以上に進展していると評価できると考える。 一点、スーパーエンハンサー領域欠失細胞の作製については初年度における細胞株の樹立はできなかった。しかしながら、これはエンハンサーRNA発現領域を決定することが目的の解析ステップであり、当初計画の細かい欠失細胞を作製する以外にもエンハンサーRNAを入れ戻す実験であったり特殊なノックダウン法によるエンハンサーRNAをノックダウンしたりする解析法を行うことにより、目的にエンハンサーRNAの同定を達成することが可能であると考えており、そちらの方法を進める方針である。よって、総括して初年度の進捗状況は非常に良好であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの解析から、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)クラスの同定は成功した。続いて、詳細などのHDACサブファミリーがCYP24A1遺伝子発現制御に関与しているかといった解析を進めていく予定である。具体的には、選択的阻害剤を用いたCYP24A1遺伝子発現の変化を解析し、HDAC阻害剤を用いたChIP-seq解析も行っていく予定である。 ChIP-seq解析について、VDR抗体を用いた解析を中心に進めていく予定である。その中で、まずは当初計画にあったRNase処理をしたrChIP-seq解析を進める。これにより、ノンコーディングRNAやエンハンサーRNAがどのようにCYP24A1発現調節に関与しているかを明らかとする。それに並行して、VDR抗体以外の抗体(ヒストン修飾や転写調節因子など)を用いて、VDR結合遺伝子座周辺にどのようなヒストン修飾の変化や転写調節因子の結合変化が生じているかを解析する。 ゲノム編集による詳細なスーパーエンハンサー領域欠失株の作製は初年度から継続して進めていく予定である。ただし、初年度のものに加えてレンチウイルスベクターを用いたエンハンサーRNA候補の入れ戻し実験と、LNAという特殊なノックダウンを用いたエンハンサーRNA候補のノックダウンを行う。これらにより、CYP24A1発現調節に関与するエンハンサーRNAの同定を行う。また、RNA-seq解析によってエンハンサーRNAがどの程度ビタミンDによって調節を受けているかを照らし合わせていく。
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Causes of Carryover |
当該年度の使用額は物品費として使用し、次年度以降も使用可能な試薬類などを初年度に多く購入した。この際、物品購入をして残った分が緊急で使用可能な予算として残り、一部が次年度使用額として生じた。これは基本的に翌年度も物品費としての使用が主となる予定である。可能であれば、学会発表などの成果を残すべく、一部旅費としての使用も行う予定である。
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