2023 Fiscal Year Research-status Report
Boron delivery to brain tumor using cerebrospinal fluid circulation with ex-vivo microimaging of boron drugs for BNCT
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23K14383
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
日下 祐江 大阪大学, 大学院工学研究科, 技術職員 (30781314)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ホウ素中性子捕捉療法(BNCT) / ホウ素薬剤 / 血液脳関門 / 脳脊髄液内投与 / 脳腫瘍 / Drug Delivery System / MALDI-MSI / 小動物用MRI |
Outline of Annual Research Achievements |
ホウ素中性子捕捉療法は、細胞レベルで、がん細胞を選択的に死滅させることを可能にするがん治療法である。人の頭頚部がんでの治療成績は目覚ましく、ホウ素中性子捕捉療法を受けた患者のがんが大幅に縮小しただけでなく、照射した腫瘍を覆う正常な皮膚細胞は治療の影響をほとんど受けずに生き残ったという事実(細胞選択性の証明)は、世界に衝撃を与えた。しかし、現在承認されているホウ素薬剤で、十分な量を脳腫瘍に到達させるにはまだまだ課題が多い。本研究では、ホウ素中性子捕捉療法の脳腫瘍患者へ向けた、新しいホウ素薬剤投与法として提案している「ホウ素脳脊髄液投与法」が、血管投与法と比べて優位であるかを評価することを目的としている。過去の研究より、ラットへのBoronophenylalanine(BPA)の脳脊髄液投与では、血管投与に比べて、1/10以下の投与量にもかかわらず、脳内のホウ素濃度を高めることがわかっている。この原因を科学的に解明するため、MALDI質量分析イメージングを用いた脳内のBPA分布画像の定量化を進めている。現時点で、60μmの空間分解能があり、細胞レベルでの治療法であるホウ素中性子捕捉療法の薬物動態研究・新規薬剤開発ツールとして適していると考えている。しかし、莫大な分子イオンを含んでいる生体材料から、わずかなBPA分子イオンを検出するのは非常に難しく、特にグリオーマモデルラットの脳切片でのイメージングでは様々な困難があった。次年度以降、この問題解決に取り組む。 上記実験に加え、BPAの脳脊髄液投与により、治療効果が十分に得られるかを検討するため、京都大学複合原子力科学研究所の原子炉で、ラットを用いた中性子照射実験を行い、脳脊髄液投与法の優位性を評価した。本実験では、基礎研究の結果と相違なく、脳脊髄液投与法により、ごく少量のBPAでも十分な治療効果が得られることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度前半では、グリオーマモデルラットの脳切片を使用したMALDI質量分析イメージング技術の検討を進めた。これまで、メラノーマモデルラットの脳切片のイメージングに成功していたため、グリオーマモデルラットについても、似たような条件で、スムーズに進むと考えていた。しかしグリオーマの場合、BPAのスペクトルとまったく同じ位置(m/z)に腫瘍由来分子が存在しており、BPAと腫瘍由来分子のスペクトルの分離が非常に難しいということがわかった。そのため、当初は予定していなかった、ラットの脳を用いた誘導体化のプロトコルの確立や腫瘍切片の洗浄による腫瘍由来物質の洗い流し等、前処理作業の検討を進めることとなった。その分、計画よりやや遅れている。また、2023年度後半では、MALDI質量分析イメージング装置のグリッド部分の修理のために、数ヶ月間、使用できなくなった。 2023年度後半に実施した、京都大学複合原子力科学研究所の原子炉でのラットの中性子照射実験は順調に進めることができ、BPAの脳脊髄液投与(8mg/kg/h)は、血管投与(350mg/kg/h)に劣らない治療効果を得られることがわかった。2023度より、大阪大学大学院医学研究科保健学専攻と共同研究を進めており、治療効果の評価は7Tの小動物用MRIを使用して実施した。小動物用MRIは非常に繊細な構造を再現し、BPAの血管投与群の脳血管が中性子照射後に拡張している像を確認した。これは、多量のホウ素と中性子が反応したことによる血管の傷害ではないかと考えている。また血管投与群では、食欲が激減し、中性子照射1週間後の体重減少が著しかった。今後、病理切片を用いた解析等により、正常組織への影響についても検討したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
MALDI質量分析イメージング装置の修理は2024年3月末に完了し、今後は本装置を使用して、グリオーマモデルラットの脳切片を用いた誘導体化の条件設定を行い、グリオーマに特化したイメージング技術の確立を目指す。その後、MALDI質量分析イメージングに加え、液体クロマトグラフィー質量分析計(LC-MS)を用いて、細分化した脳切片ごとのBPA濃度を測定(絶対評価)、画像化する。LC-MSによる絶対濃度の情報をMALDI質量分析イメージングに組み込めば、定量的な評価ができるイメージング技術が確立する。2種類の画像の再構成には、多量のデータが必要であるため、データを集めて、機械学習することで、より正確で微細なイメージング技術を確立したい。この技術が確立すれば、脳脊髄液投与法がごく少量で脳腫瘍まで到達する経路や原因が解明できると考えている。 脳脊髄液投与法の実証実験については、2024年度以降も京都大学複合原子力科学研究所の原子炉でのラット照射実験の実施を予定している。2024年度は、BPAとは別のホウ素薬剤(例:Disodium mercaptoundecahydrododecaborate(BSH)など)を用いて、中性子照射実験を実施する予定である。しかし、京都大学複合原子力科学研究所の原子炉は2026年にシャットダウンする予定のため、今後は青森県量子科学センターの加速器の利用も検討する。青森県量子科学センターの加速器は、原子炉(熱外中性子)とは異なり、熱中性子を発生するため、まずはラットを対象とした治療プロトコルの確立を進める。またPET-MRI装置を用いて、脳脊髄液から18F-BPAを投与し、脳脊髄液投与法のリアルタイムでの脳内BPA分布についても調べる予定である。これら多方面からのアプローチにより、薬剤の脳脊髄液投与法の優位性を評価し、ホウ素中性子捕捉療法への実現を目指す。
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