2023 Fiscal Year Research-status Report
匂い物質代謝酵素の活性阻害に着目した薬剤性嗅覚障害の発症メカニズムの解明
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23K14415
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Research Institution | Wakayama Medical University |
Principal Investigator |
高岡 尚輝 和歌山県立医科大学, 薬学部, 助教 (40909587)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 薬剤性嗅覚障害 / 嗅上皮 / アルデヒド酸化酵素 / アルデヒド脱水素酵素 / 匂い物質 |
Outline of Annual Research Achievements |
医薬品の使用により嗅覚機能に異常が生じる薬剤性嗅覚障害が知られる。現在、この原因となる薬物が数十種類ほど報告されているが、これらの薬理作用や化学構造には明確な共通点がなく、その発症メカニズムは未解明なままである。本研究では、医薬品による嗅上皮の薬物代謝酵素の活性阻害がこの薬剤性嗅覚障害に繋がる可能性に注目し、複数の医薬品を対象に、これらの嗅上皮の薬物代謝阻害効果、組織移行性、嗅覚機能への影響などを多角的に評価し、薬剤性嗅覚障害の新たな発症メカニズムの解明を目指す。 本年度は、薬剤性嗅覚障害の副作用が報告されている医薬品の「嗅上皮での薬物代謝阻害効果」および「嗅上皮組織への移行性」を評価した。現在までに、マウス嗅上皮9000g上清(S9)画分を用いた匂い物質の代謝評価、医薬品による匂い物質代謝の阻害評価、医薬品の嗅上皮移行性評価を通じて、①アルデヒド匂い物質がカルボン酸体に代謝され、その活性は高いこと、②その代謝反応には嗅上皮のアルデヒド酸化酵素 (AOX)やアルデヒド脱水素酵素 (ALDH)が関与すること、③医薬品成分の一部がこのアルデヒド匂い物質の酸化反応を阻害すること、④上記の医薬品成分は経口投与後にマウス嗅上皮に十分に移行することを明らかにした。これらの成果は、薬剤性嗅覚障害の原因薬物が全身曝露された際に嗅上皮に移行しアルデヒド匂い物質の代謝を撹乱する可能性を示唆している。次年度、これらの医薬品成分が嗅覚機能に与える影響をマウスを用いたin vivoカルシウムイメージングや嗅覚行動評価により精査する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は上記の通り、検証医薬品成分の中から「嗅上皮での薬物代謝阻害効果」および「嗅上皮組織への移行性」を有する医薬品成分をすでに見出している。今後さらに、AOXやALDH以外の薬物代謝酵素の阻害薬物の探索も並行して進めるが、次年度に実施するカルシウムイメージングやin vivo嗅覚行動評価に供する医薬品成分と匂い物質の組み合わせは決定出来ており、本年度は、おおむね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、当初の計画通り、本年度に同定した嗅上皮の薬物代謝酵素の阻害薬物の投与がマウスの嗅覚機能にどのような影響を与えるのかを調べるために、in vivoカルシウムイメージングおよび嗅覚行動試験を実施する。in vivoカルシウムイメージングでは、匂い刺激を与えた際の嗅球の神経活動パターンとその強度を観察することで、医薬品成分がにおい知覚の質や強度に与える影響を調べ、嗅覚行動評価では、嗅覚閾値テストや匂い識別テストなどの確立された嗅覚機能評価法を行い、医薬品成分がマウスの嗅覚閾値や匂い識別能力に与える影響を精査する。
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Causes of Carryover |
本年度は、検証医薬品成分の様々な薬物代謝酵素に対する阻害効果を幅広く検証した上で、次年度の実験に使用する候補薬物を選定する予定であったが、アルデヒド匂い物質の代謝とその阻害に着目したところ、当初想定していたよりも効率的に目的の医薬品成分が見出されたため、未使用額が生じた。次年度は、このアルデヒド匂い物質に対するマウスを用いたin vivo評価を行いつつ、さらに、アルデヒド以外の化学構造を有する匂い物質の代謝酵素やその阻害医薬品の探索も並行して実施するため、未使用額はその経費に充てる予定である。
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