2023 Fiscal Year Research-status Report
新規転写抑制因子teashirt homolog 2 (TSHZ2)のスプライシング異常と病理診断への活用
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23K14488
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Research Institution | Aichi Medical University |
Principal Investigator |
陸 美穂 愛知医科大学, 医学部, 助教 (50762390)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 乳癌 / 核タンパク / スプライシングバリアント |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、従来より乳腺上皮に発現することが知られているTSHZ2アイソフォーム1(iso1)と、癌で高発現している可能性のある新規アイソフォーム(iso3)の機能解析を通した乳癌の病態解明と診断マーカーへの応用を目的に進めている。本年度は、TSHZ2 iso3 の機能解析および癌細胞に与える形質変化の解析として、まず初めに発現ベクターにTSHZ2 の各スプライシングバリアントを組み込み、細胞内局在の違いを解析した。その結果、どちらのアイソフォームも強制発現系では核に集積することを確認した。また、CRISPR-Cas9システムを用いて正常乳腺上皮のTSHZ2 遺伝子をノックアウトした細胞株を樹立したところ、線維芽細胞様の上皮間葉転換を起こした細胞の形態に変化した。ここに各アイソフォームを発現させた場合の形質変化の違いを評価するため、現在発現ベクターを作製中である。 病理検体で各アイソフォームタンパクの発現状況を解析するためには、TSHZ2 iso1のみ、あるいはiso3のみを認識する抗体が必要である。そこで、大腸菌タンパク発現システムにより、各アイソフォームのカルボキシル末端側のリコンビナントタンパクを合成して抗原とし、マウスモノクローナル抗体の作製を試みた。その結果、iso1については非共通部分、iso3については末端認識抗体の作製を目指していたが、目的とするクローンが得られなかったため、発現比較はRNA in situ hybridizationプローブを設計してmRNAレベルで行う方針に変更した。 抗体作製の過程で、二つのアイソフォームの共通部分を認識すると予想される抗体を得ることができた。この副産物として得られた抗体を既に保有している抗体と比較した場合の感度・特異度の違いを解析し、良好な結果が得られた抗体をTSHZ2抗体として今後の実験に使用していきたいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究開始時の計画通り、各アイソフォームを強制発現させた場合の細胞内局在の解析を行い、また、CRISPR-Cas9システムを用いた正常乳腺上皮のTSHZ2 遺伝子ノックアウト細胞株を樹立することができた。TSHZ2ノックアウト細胞株には上皮間葉転換を起こした細胞と類似した明らかな形態の変化がみられ、この細胞株にTSHZ2 iso3を強制発現させた場合の増殖能、浸潤能、遊走能、薬剤耐性能といった悪性形質の評価を行うための発現ベクター作製についても問題なく進められている。 TSHZ2 iso1のみ、あるいはiso3のみを認識する抗体の作製については、それぞれを認識し分けることが可能となる目的のクローンを計画通りに得ることができなかった。そこで、発現比較はRNA in situ hybridizationプローブを設計してmRNAレベルで行うことで各アイソフォームに対する抗体が得られなかった点をカバーできると考え、現在各アイソフォームのmRNA配列に対応するプローブを設計中である。 当初より想定していたTSHZ2アイソフォーム抗体を作製することはできなかったが、その過程で、二つのアイソフォームに共通のアミノ酸配列を認識すると推定される抗体を得ることができた。この副産物として得られた抗体について、既に保有している購入抗体と比較した場合の感度・特異度の違いを解析し、より良好な結果が得られた場合はこちらをTSHZ2抗体として今後の実験に使用していきたいと考えている。抗体の評価をすることによって、次年度の臨床検体を用いたタンパク発現解析の実験を円滑に進めることができ、またより信頼性の高い結果に結び付くと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度主に行ってきたTSHZ2の抗体作製ではTSHZ2 iso1 とiso3の共通部分を認識する抗体のクローンしか得られなかったが、次年度はその抗体の評価に加えて、iso1/iso3の識別についてはRNA ISHを用いたin vivoでのmRNA発現に基づく解析を行う方針で研究を進めていくことを検討している。エクソン-エクソンジャンクションの配列の違いを利用し、TSHZ2 バリアント1(iso1に対応)のみ、あるいは バリアント3(iso3に対応)のみを認識するRNA ISH用プローブを設計する。 TSHZ2の分子機構については培養細胞を用いた実験系で進める。今後はTSHZ2ノックアウト細胞株にTSHZ2の各アイソフォームを強制発現させ、増殖能、浸潤能、遊走能、薬剤耐性能といった悪性形質の評価を行う。更に、マイクロアレイによる遺伝子発現解析や免疫沈降実験による結合分子の同定を行い、形質変化に結び付く分子機構を明らかにする。これらの結果をもとに、生体試料(正常乳腺および乳癌組織)を用いたタンパクの解析を行う。培養細胞の解析でみられた変化を、実際の乳癌組織を用いウェスタンブロットで確認する。 更に、作製したRNA ISHプローブを用い、乳腺腫瘍のパラフィン切片を用いたmRNA発現の解析を行い、その結果と臨床情報を合わせて臨床病理学的特徴の統計解析を行う。WBで見られた正常乳腺と乳癌のアイソフォーム発現パターンの違いを実際の標本上で標識することを目指すのが本研究の目的である。TSHZ2 iso1および iso3 の発現パターンを可視化し、パネリングすることは、良悪性の判断に迷う乳管内病変や、悪性度の判定といった乳癌病理診断のバイオマーカーとなる。
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Causes of Carryover |
本年度はTSHZ2の抗体作製を中心に研究を進めてきたが、研究開始時はTSHZ2 iso1のみ、あるいはiso3のみを認識する2種類の抗体を精製予定であった。しかしTSHZ2 iso1とiso3の共通部分を認識すると推測される抗体のクローンしか得られなかったため、抗体精製に必要なハイブリドーマ増殖培地やカラム、バッファー類の使用量が当初の予定より減少した。次年度はiso1/iso3の識別についてはRNA ISHを用いたin vivoでのmRNA発現に基づく解析を行う方針にシフトしていくことを検討している。エクソン-エクソンジャンクションの配列の違いを利用し、TSHZ2 バリアント1のみ、あるいはバリアント3のみを認識するRNA ISH用プローブを設計するための費用が必要である。 また、次年度予定しているTSHZ2の分子機構についての実験では、TSHZ2ノックアウト細胞株にTSHZ2の各アイソフォームを強制発現させて形質変化を観察する必要があり、その試薬や培養プレート、プレートに挿入するインサートを揃える必要がある。更に、マイクロアレイによる遺伝子発現解析や免疫沈降実験による結合分子の同定は受託解析を依頼する予定である。生体試料(正常乳腺および乳癌組織)を用いたmRNAやタンパクの解析では症例数が必要であり、スライドガラスなどの標本作成に必要な物品や試薬に費用を使用する予定である。
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