2023 Fiscal Year Research-status Report
陽子線治療を受ける孤独な子どもに母の温もりを:体感型小児治療支援システムの開発
Project/Area Number |
23K14886
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
森 祐太郎 筑波大学, 医学医療系, 助教 (60802618)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | クロスリアリティ / ハプティクス / 陽子線治療 / 小児がん |
Outline of Annual Research Achievements |
小児がんに対する陽子線治療は保険収載により治療の有効性が認められた一方、安全性や効率が重視される次のステージへ進んでいる。安全な陽子線治療の提供のためには、位置合わせを行ってから陽子線照射終了まで、患者自身が動かず安静を保つことが必要不可欠である。しかし治療室は孤独であり、さらに治療時間も長く、小児患者に安静を要求するのは極めて難しい。以上より、治療室で一人孤独な小児患者に、どのようにして安心を与えるか、さらにそれが安静を保つ助けとなり、安全な陽子線治療を提供できるかが学術的「問い」になる。本申請課題では、一人孤独と闘いながら治療を頑張る小児患者に対して、クロスリアリティ(Cross Reality: XR)技術とハプティクス技術を活用することで、母の顔、声、手を握ってもらう感覚をリアルタイムで与えられる、新たな体感型陽子線治療支援システムの開発を目的とした。 本応募研究期間で達成したいことは、陽子線治療を受ける小児がん患者に対して、XR技術により遠隔で母の声と3次元の姿を治療室に届け、ハプティクス技術により手が触れる感覚をリアルタイムで与える技術を確立することである。目的達成のために明らかにすることとして、①多種の放射線が飛び交う治療室内において、遠隔から安定したリアルタイムのXR映像を配信するシステムを確立すること、②XR映像に連動した接触感覚をハプティクス技術により再現することである。研究期間は3年間とし、今年度は①の中で、XR技術によるリアルタイム映像配信システムの開発を中心に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本応募研究期間で達成したいことは、陽子線治療を受ける小児がん患者に対して、XR技術により遠隔で母の声と3次元の姿を治療室に届け、ハプティクス技術により手が触れる感覚をリアルタイムで与える技術を確立することである。目的達成のために明らかにすることとして、①多種の放射線が飛び交う治療室内において、遠隔から安定したリアルタイムのXR映像を配信するシステムを確立すること、②XR映像に連動した接触感覚をハプティクス技術により再現することである。今年度は①の中で、XR技術によるリアルタイム映像配信システムの開発を中心に取り組んだ。システムは大きく分けて2つの構成からなり、それぞれの概要を以下に示す。 1.お母さんの3D映像の取得方法の確立:深度機能付き3Dカメラ(FemtBolt)を購入し、データ処理用PC上のUnityにて映像の取得が完了した。 2.ヘッドマウントディスプレイへのお母さんの映像の転送:ヘッドマウントディスプレイ(Microsoft hololends2)とデータ処理用PCとを接続し、3Dカメラで取得した映像の投影が完了した。人の映像を投影する際には複数の手法があり、直接3Dカメラの映像を投影することは可能となった。また、bodytrackingの情報の取得が可能となり、これにpointcloudの情報を組み合わせることで、より現実に近い映像の転送が可能(Holoprtation技術)となるが、その実現には至っていない。今後、より高品質の映像を転送することを目指し、Holoprtation技術による転送を目指す。 なお、本研究のここまでの成果を論文として発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は2つの検討項目があり、①多種の放射線が飛び交う治療室内において、遠隔から安定したリアルタイムのXR映像を配信するシステムを確立すること、②XR映像に連動した接触感覚をハプティクス技術により再現することである。今年度は①の中で、XR技術によるリアルタイム映像配信システムの開発を中心に取り組んでおり、①に関して残る課題と今後の研究の推進方策を以下に示す。 ・Holoprtation技術を用いた高品質の映像転送の実装:現在までにbodytrackingの情報の取得が可能となっており、これにpointcloudの情報を組み合わせることで、Holoprtation技術による映像転送の確立を目指す。 ・陽子線治療室特有のノイズ対策(電磁波ノイズが多い治療室内において安定した通信品質を保てるか?ヘッドマウントディスプレイが中性子線によりデバイスエラーを起こさないか?):ノイズ成分が最も多いのは治療を受ける患者周囲であり、患者付近でXR用HMD等の電子機器を扱う場合、電磁波ノイズによる通信品質の悪化、中性子線による電子機器の損傷が懸念される。現在、タブレット型電子機器(iPad)を用いた検証実験を行い、陽子線治療室内での動作安定性にかんして問題ないことを確認した。今後、ヘッドマウントディスプレイを用いた同様の実験を行う。 検討項目②に関しては最終年度に実施予定であり、本研究では空中ハプティクス技術の導入により“お母さんに手を握ってもらう”接触感覚の再現を目指す。空中ハプティクスの実装に向けては、多数の超音波振動子を配列した超音波振動子アレイを用いて開発を行う予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた最大の理由は、クロスリアリティシステム開発を行うにあたり、専門的な研究開発をするためにクロスリアリティ開発用ソフトウェアであるUnity Proライセンスが必要となと予想し予算計上したが、ライセンスが不要となった点が挙げられる。不要となった理由は、本年度の開発内容においてはUnityの一般ライセンスで必要十分であったため、ライセンスの購入を見送った。 これにより生じた次年度使用額については、深度機能付き3Dカメラを追加購入して映像の精度の向上を図ることや、陽子線治療室内のノイズ(電磁波・中性子等)により消耗する可能性があるヘッドマウントディスプレイ及びPCの購入に当てる予定である。
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Research Products
(1 results)