2023 Fiscal Year Research-status Report
過酸化水素透過チャネルAQP1を介した心筋組織の酸化ー還元バランス調節機構の解明
Project/Area Number |
23K15154
|
Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
室井 慎一 富山大学, 和漢医薬学総合研究所, 研究員 (70965714)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 酸化-還元バランス / アクアポリン / 還元ストレス / 過酸化水素 / 心肥大 |
Outline of Annual Research Achievements |
過度な還元状態に陥ることで生じる還元ストレスは,酸化ストレスと対照的に不明点が多くその理解が急務である.心臓は酸化―還元バランスの維持が特に重要な組織であり,酸化,還元ストレスのいずれもが心肥大を引き起こす.アクアポリン1 (AQP1) は細胞膜間にH2O2を透過させることにより酸化ストレスを促進し,心肥大を悪化させることが報告されている.還元ストレスにおいても細胞膜間のH2O2の移動は重要であり,AQP1の関与が示唆される.そこで,本研究では還元ストレスに対するAQP1の役割の解明を目的とする. 本年度は,心臓組織で還元物質の過剰産生が生じる還元ストレス誘発性心肥大モデルマウスの心臓サンプルを用いてAQP1 mRNA発現を調べた.モデルマウスではAQP1 mRNA発現が著明に低下していた.この結果から,トランスクリプトーム解析の結果が実際に検証され,その減少が還元ストレスによる病態発症に関与する可能性が示唆された. AQP1発現細胞であるA549細胞に還元物質であるGSHの前駆体であるN-acetyl-cysteine (NAC, 10 mM) を処理するとAQP1のmRNAおよびタンパク発現量が著明に低下した.この減少,グルタチオン合成酵素阻害薬であるbuthionine sulfoximine (BSO, 100 uM) の共処理によって阻害され,還元物質であるGSHによってAQP1発現が制御されていることがわかった.さらに,Keap1-Nrf2系の活性化薬であるdiethyl malateの処理によってもAQP1の発現は減少し,BSOの共処理によって阻害されたことから,還元ストレスに関与することが報告されているKeap1-Nrf2系の過度な活性化に伴うGSHの過剰産生がAQP1発現の減少にかかわることが示唆された.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画段階では,還元ストレス誘発性心肥大モデルマウスでのトランスクリプトーム解析の結果の検証および還元ストレス条件下におけるAQP1発現減少メカニズムの解明を中心に実施する予定であったが,これはおおむね達成できたと考えられる.特に,還元ストレス誘発性心肥大モデルマウスの心臓におけるAQP1発現減少は顕著であった.さらに,その減少がGSHによるものである可能性が示唆されたため,GSHにターゲットを絞って解析していくなど今後の展開が期待される.さらに,由来臓器は異なるものの,AQP1発現細胞株をもちいた実験においても還元ストレス誘発性心肥大モデルマウスでみられた現象が検証され,マウス個体レベルでは検討が難しいミトコンドリア機能や細胞内のH2O2の移動などの実験を効率的に行うことが可能になることが予測される.
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの成績から,心臓で過度に還元物質が産生される還元ストレス誘発性心肥大モデルマウスでAQP1発現が著明に減少することが確認された.AQP1は水だけでなく,H2O2の細胞膜間の輸送を担うことが報告されており,酸化-還元バランスの恒常性維持にAQP1がどのように関与するかを検証する.具体的には,AQP1をノックダウンさせた細胞に還元ストレスを誘導するNACを処理し,細胞内のROSレベルや還元ストレスによって引き起こされるミトコンドリア機能障害を各因子のmRNAおよびタンパク質発現を評価することで,還元ストレスによるAQP1発現減少がストレス応答に対して抑制的にはたらく可能性を検証する.現在,ラット心筋由来の細胞株であるH9c2細胞を用いた実験も並行して行っており,細胞株を用いた実験においてもマウスにより近い条件で検証を行っていく予定である.
|