2023 Fiscal Year Research-status Report
The pathophysiology and therapeutic approaches of graft-versus-host disease following allogeneic hematopoietic stem cell transplantation with a focus on the role of oral microbiota.
Project/Area Number |
23K15301
|
Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
山本 晃 岡山大学, 大学病院, 助教 (90970517)
|
Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | Dysbiosis / GVHD / 口腔内細菌叢 |
Outline of Annual Research Achievements |
血液悪性腫瘍の根治療法である同種造血細胞移植は、多くの合併症を引き起こす可能性がある。特に移植片対宿主病(GVHD)は、生命を脅かすこともあり、このため高齢者にとっては移植治療の適用が限られている。最近の研究では、口腔内細菌叢の乱れ(口腔Dysbiosis)が、様々な全身性疾患と関連していることが明らかになり、申請者は口腔DysbiosisがGVHDの主要病態である同種反応性T細胞の活性化や腸管Dysbiosisをきたし、GVHDを惹起するのではないかと考え検証を行った。 本研究では、既報に基づいた口腔Dysbiosis-GVHDマウスモデルを用いて、口腔Dysbiosisが慢性GVHDの発症に与える影響を調査した。口腔Dysbiosisマウスモデルは、健常マウスと比べて同種造血幹細胞移植を行うと慢性GVHDが増悪し、生命予後も悪化した。さらに口腔Dysbiosisマウスモデルに対して、口腔内への抗生剤塗布による病原微生物除去によりこれらは改善した。16S rRNAシークエンスではEnterococcaceaeが口腔Dysbiosisモデルで増加しており、頸部リンパ節の蛍光免染においても増加していた。これらは抗生剤塗布群で低下しており、Enterococcaceaeが局所炎症・抗原提示細胞の活性化を引き起こし、同種免疫応答を増強することにより慢性GVHDを悪化させた可能性を示唆した。また口腔Dysbiosisモデルでは移植期間を通じて腸管においてもEnterococcaceaeが有意に増加していた。口腔-頸部の局所感染とともに、腸管Dysbiosisも、口腔Dysbiosisが慢性GVHDを悪化させる機序として考えられた。 現時点での本研究を通じて、口腔環境に介入することで慢性GVHDを緩和し予後を改善し得ることを示し、移植期間中の口腔ケアの重要性が示唆された。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既報をもとにマウスの臼歯間に縫合糸を留置する口腔Dysbiosisモデルを確立した。留置して14日目の縫合糸の細菌を16S rRNAシークエンスで解析したところ、14日間糸留置群(OLP群)ではコントロール群とは異なる口腔細菌叢を呈しており、細菌の多様性の低下(Dysbiosis)を確認した。造血細胞移植を行ったところ、OLP群ではコントロール群と比べて有意に慢性GVHDが重症化し予後が悪いことを確認した。 次に、頸部リンパ節内の抗原提示細胞(APCs)を解析したところ、OLP群はコントロール群に比べて、移植開始時点ですでに頸部リンパ節内のAPCsが有意に増加しており、活性化の指標となるMHC ClassIIやCD80の発現も増加していた。 移植前・移植後の口腔細菌叢・腸管細菌叢を16S rRNAシークエンスを用いて確認したところ、OLP群では移植期間を通じてEnterococcaceaeの増加が一貫して観察された。頸部リンパ節の蛍光免疫染色にても、OLP群では移植前、移植後に共通して多数のEnterococcusを認めた。次に移植期間中OLP群の口腔内に抗生剤の合剤を塗布することで病原微生物の除去を試みた。慢性GVHDの症状緩和・予後が改善し、移植後口腔内のEnterococcaceaeの減少を認めた。 以上のことから、口腔Dysbiosisによる慢性GVHD増悪のメカニズムの一部が解明された。まず一つ目は、口腔Dysbiosisで増加したEnterococcaceaeが頸部リンパ節に流入しAPCsを活性化し、ドナーT細胞によるアロ免疫応答を増強する経路である。次に、口腔内で増加したEnterococcaceaeは腸管へ移行し異所性コロニーを形成することで腸管Dysbiosisを誘発し、その後のGVHDを増悪させる経路である。
|
Strategy for Future Research Activity |
移植後シクロホスファミドを併用したHLA半合致移植(Haplo-PTCy)における、口腔Dysbiosisが与える慢性GVHDへの影響を調査する。シクロホスファミドは、移植後ドナーT細胞の活性化を強力に抑制し急性GVHDの発症を予防している。申請者らはマウスモデルを用いた実験で、Haplo-PTCyにおいても口腔Dysbiosisが慢性GVHDを重症化させることを確認している。口腔Dysbiosisが、シクロホスファミドによるGVHD抑制化を無効にしていることが示唆されるが、その詳細な機序の調査ができておらず、今後口腔および腸管細菌叢の解析、頸部リンパ節におけるAPCsや全身のサイトカインなどの調査を行う予定である。 また、申請者らの施設で同種造血細胞移植を受けた患者において、口腔Dysbiosisが与える慢性GVHDへの影響を検証する。口腔Dysbiosisと移植後早期の口腔粘膜炎の関連が報告されており、間接的にはなるが、移植後早期口腔粘膜炎と慢性GVHDの有無や重症度を調査することで関連性を検討する。歯科に協力を仰ぎ、移植期間中の口腔細菌叢サンプルを採取し16S rRNAシークエンスを用いて移植前後の細菌種の変化、多様性の変化を解析する。口腔粘膜炎との関連、急性・慢性GVHD、原疾患の再発、予後など、移植後の経過に関わる因子を口腔細菌叢の観点から特定する。
|