2023 Fiscal Year Research-status Report
B細胞リンパ腫がB細胞受容体シグナル依存性から脱却するメカニズムとその治療応用
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23K15325
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
有馬 浩史 京都大学, 医学研究科, 助教 (50618014)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | B細胞リンパ腫 / B細胞受容体シグナル / 細胞周期 / c-MYC / Cyclin D3 / CDK4/CDK6 |
Outline of Annual Research Achievements |
LoxP配列で囲まれた機能的B細胞受容体(BCR)遺伝子を持つMYC発現マウスB細胞リンパ腫の腫瘍細胞をTAT-Cre処理することで、BCRを除去したB細胞リンパ腫の細胞株を作製した。B細胞リンパ腫の細胞をBCRの除去の前後で野生型マウスへ移植し、生体内で増殖したリンパ腫細胞をソーティングで回収した後、RNA-seqによる網羅的遺伝子発現比較解析を行った。その結果、B細胞リンパ腫では、細胞周期のG1/S期移行を進めるはたらきを担うCyclin D3の発現がBCRシグナルに依存することを明らかにした。 次に、BCR陽性および陰性のB細胞リンパ腫の細胞株を用いて、化合物ライブラリを活用したインビトロ薬剤感受性ハイスループットスクリーニングを行った。その結果、B細胞リンパ腫では、BCRの除去により、Cyclin D3と複合体を形成してはたらくCDK4/CDK6を阻害する低分子化合物に対する薬剤感受性が増強することが示された。 さらに、BCR陽性および陰性のリンパ腫細胞をそれぞれ野生型マウスへ接種した高悪性度B細胞リンパ腫のモデルマウスへ、CDK4/CDK6阻害剤であるPalbociclibを経口投与する実験を行ったところ、CDK4/CDK6阻害剤は、BCR陽性・陰性リンパ腫の双方に対して一定の腫瘍増殖抑制効果を示す一方で、BCR陰性リンパ腫に対してより強い腫瘍増殖抑制効果を発揮することが明らかとなった。 一方で、ヒトのBCR陽性および陰性のMYC発現びまん性大細胞型B細胞リンパ腫の生検検体のRNA-seq解析を行ったところ、BCR陰性・低発現リンパ腫では、Cyclin D3とCDK4/CDK6の複合体に依存しないE2F経路の活性化が、BCRシグナルの喪失に伴うCyclin D3発現の低下による細胞周期チェックポイントを回避するメカニズムのひとつであることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒトのMYCおよびBCL2の両方の再構成伴う高悪性度B細胞リンパ腫の臨床生検検体をもとにRNA-seqによる遺伝子発現データを取得し、予定していたBCR陽性および陰性リンパ腫を特徴付ける遺伝子発現プロファイルの解析に着手した。遺伝子発現プロファイルの比較から、BCR陰性リンパ腫ではゲノム不安定性およびゲノム構造異常の蓄積につながり得るシグナル経路が活性化している可能性が新たに示され、悪性リンパ腫の病態および治療標的候補としての観点から、このようなシグナル経路の意義の検討を開始した。 LoxP配列で囲まれた機能的BCR遺伝子を持つMYC発現マウスB細胞リンパ腫(λ-MYC)の一次細胞株をもとに、TAT-Cre処理を行いBCR欠失B細胞リンパ腫の細胞株を磁気細胞分離(MACS)法を用いて単離することで、インビトロで実験に利用できるBCR陰性リンパ腫の細胞株を安定して樹立する実験系を確立した。また、そのようにして得られたBCR陽性および陰性リンパ腫の細胞を免疫健常の同系統野生型マウスへ静注にて接種することで、生体内のB細胞リンパ腫におけるBCRシグナルの意義を対比実験にて簡便に検討できるBCR陽性および陰性リンパ腫のマウスモデルを確立した。 BCR陽性および陰性のB細胞リンパ腫の細胞株を用いて、予定していた化合物ライブラリを活用したインビトロ薬剤感受性ハイスループットスクリーニングを行い、BCR陽性および陰性リンパ腫へそれぞれ有効性を示す個々の化合物について、抗腫瘍効果検証のためインビトロでの腫瘍細胞処理実験およびマウスモデルでの薬剤投与実験を開始した。まずCDK4/CDK6阻害剤について、BCR陽性および陰性リンパ腫のマウスモデルへ経口摂取を行うとともに、BCRシグナルの有無による薬剤感受性の違いを検証することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
ヒトの高悪性度B細胞リンパ腫の臨床生検検体を用いたRNA-seqによる遺伝子発現プロファイルの比較解析により、BCR陰性リンパ腫では抗腫瘍免疫応答の回避を助けるシグナル経路の活性化が認められたことから、このようなシグナル経路の活性化を司る遺伝子変異の検索のため、ヒトの高悪性度B細胞リンパ腫の臨床生検検体を用いた全エクソームシーケンス(WES)を用いた解析の実施を予定している。 次に、BCR陽性および陰性のリンパ腫がそれぞれ特に依存するシグナル経路および分子を明らかにするため、BCR陽性および陰性リンパ腫の腫瘍細胞へCAS9およびバーコード付きsgRNAライブラリの発現をレンチウイルスにより導入し、それらの腫瘍細胞を野生型マウスへ接種し、生体内で増殖したリンパ腫を回収して一括シーケンス解析を行う、インビボゲノムワイドCRISPRスクリーニングの実施を予定している。このようにして特定したシグナル経路および分子のうち、BCR陰性リンパ腫で特に依存性が高まるものについては、B細胞リンパ腫に対してBCRシグナル阻害剤とともに低分子阻害剤を併用して投与することで、合成致死性(Synthetic lethality)を誘導し得る良い新規治療標的となる可能性が期待される。 化合物ライブラリを活用したインビトロ薬剤感受性ハイスループットスクリーニングにより、我々は既に、BCR陰性リンパ腫ではCDK4/CDK6阻害剤に対する感受性が亢進することを確認した。この他に、BCRの欠失に伴いリンパ腫に対する治療効果が特に増強する候補薬剤についても、リンパ腫の細胞を免疫健常の野生型マウスへ接種するマウスモデルを用いて、生体内での悪性リンパ腫治療効果の検証を進める予定である。
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Causes of Carryover |
令和5年度に、ヒトの高悪性度B細胞リンパ腫の臨床生検検体と、マウスB細胞リンパ腫のモデルマウスをもとに、RNA-seqによるBCR陽性および陰性リンパ腫の遺伝子発現プロファイルの比較解析を行ったところ、BCR陰性リンパ腫では、抗腫瘍免疫応答の回避を助けるシグナル経路の活性化に加え、ゲノム構造異常の蓄積に関わる遺伝子グループの発現が亢進していることが予期せず新たに示唆された。そのため、抗腫瘍免疫応答を調べる実験と並行して、ゲノム構造異常・DNAダメージの蓄積を調べる実験を行うこととした。新たな実験系の検討のため、計画を変更したので、未使用額が生じた。抗腫瘍免疫応答およびゲノム構造異常・DNAダメージを調べる実験の一部をともに次年度に行うこととしたので、未使用額はその経費に充てることとしたい。
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