2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23K15730
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
鈴木 智亮 北海道大学, 大学病院, 医員 (20964604)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 末梢神経損傷 / 軸索再生 / シュワン細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
末梢神経は再生するが、重度および近位部損傷の臨床成績は不良であり、軸索再生を促進する革新的治療方法の開発が求められている。そこで、研究代表者は、損傷軸索の再生過程を司る修復型シュワン細胞の軸索再生機序に注目し、網羅的遺伝子解析から、修復型シュワン細胞が発現する、GDNF family receptor alpha-1(GFRα1)が損傷軸索の再生促進効果を持つことを同定した。そこで、本研究は、本知見を発展させ、GFRα1は末梢神経の新規軸索再生因子であるという仮説を検証し、末梢神経損傷の修復機構の解明と末梢神経損傷に対する新規治療方法の開発を試みる。まず、GFRα1が末梢神経再建モデルで軸索再生促進を介した機能回復促進効果を持つか検討した。ラット坐骨神経の欠損部を、無細胞の神経組織片で再建し、組織片にGFRα1を注入した。対照群として、注入なしを陰性対照とし、自家神経移植を陽性対照として、設定し、8週間に渡って、歩行機能・感覚機能・神経伝導機能・筋重量を測定した。その結果、GFRα1投与群と陽性対照群が、陰性対照群に比較して、感覚機能(von Frey)、歩行機能、神経伝導速度、筋重量(前脛骨筋)、G-ratioにおいて、有意に優れた値を示した。また、陽性対照群のみ、陰性対照群に比較して、振幅と、腓腹筋筋重量が有意に優れていた。これらの結果は、GFRα1の局所投与により、無細胞の再建材料が自家神経に匹敵する再生能を獲得したことを示しており、GFRα1の高い軸索再生能と、再建材料の修飾因子としての有用性を示すものである。次の課題に必要な、タモキシフェン誘導のGDNF欠損マウスの繁殖も進んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
雌のLewis Ratの坐骨神経に10mmの欠損を作成後、無細胞化処理した自家神経で再建し、GFRα1または対照蛋白を再建部に局所投与した群をそれぞれ、治療群、陰性対照群とした。陽性対照群として自家神経移植を実施した(各群11匹)。再建後8週に渡って、感覚機能(von Frey、熱刺激)、電気生理機能(神経伝導速度、振幅)、筋重量、再生軸索数、再髄鞘化(G-ratio、髄鞘厚)を定量した。その結果、今回検討したすべての評価項目において、治療群と陽性対照群の間に有意差を認めなかった。両群とも、陰性対照に比較して、感覚機能(von Frey)、歩行機能、神経伝導速度、筋重量(前脛骨筋)、G-ratioにおいて、陰性対照群よりも有意に優れた値を示した一方、陽性対照のみ、陰性対照に比較して、振幅と、腓腹筋筋重量が有意に優れていた。これらの結果は、GFRα1の局所投与により、無細胞の再建材料が自家神経に匹敵する再生能を獲得したことを示しており、GFRα1の高い軸索再生能と、再建材料の修飾因子としての有用性を示すものである。GFRα1と組み合わせるスカフォールド、およびGFRα1の修飾方法の最適化により、さらに再生能を向上させた末梢神経再建材料を開発できる可能性がある。以上の結果は、目的の一つである、GFRα1の局所投与が末梢神経再建後の機能回復効果を明らかにした。さらに、もう一つの目的である、GFRα1の軸索再生効果のGDNF非依存性に関しても、GDNFのknock outマウスを使用した検討を開始済みである。また、GFRα1の受容体に関しても、後根神経節細胞を使用した、GFRα1のプルダウンアッセイとプロテオミクスを実施し、候補分子を同定し、現在確認実験を実施中である。以上の結果は、予定した3つの実施項目を順調に達成していることを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度では、末梢神経再建モデルでのGFRα1投与の検討において、まだ、完了していない歩行機能の解析を完了させる。また、8週後に加えて、再建2週後の組織標本を検討して、軸索再生、シュワン細胞の遊走、血管内皮細胞の遊走を検討し、GFRα1の効果は、シュワン細胞の増殖を介したものではなく、軸索への直接の効果によることを確認する。さらに、GFRα1を応用した人工神経の開発のため、GFRα1の効果を最大化し、手術操作性にすぐれる人工材料を、すでに生体適合性が臨床的に証明された材料から検討する。また、GFRα1の軸索再生効果のGDNF非依存性に関しても、タモキシフェン誘導型のGDNFのknock outマウスの後根神経節細胞を使用し、GDNFの存在を完全に無くした環境で、GFRα1を投与し、厳密に明らかにする。GFRα1の受容体に関しては、培養後根神経節細胞にGFRα1を投与後、候補分子の阻害抗体を投与して、GFRα1の神経突起伸長効果を明らかにする。
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Causes of Carryover |
GDNFのknock outマウスの購入と繁殖に、当初予定していた費用を要せず、確立することが可能になったため、その分の予算をR6年度の人工神経の開発や電子顕微鏡による組織評価に使用する予定である。
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