2023 Fiscal Year Research-status Report
Involvement of Ca2+ signaling in drug-inflammation interaction and elucidation of Drug-induced gingival enlargement
Project/Area Number |
23K16190
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Research Institution | Health Sciences University of Hokkaido |
Principal Investigator |
蓑輪 映里佳 北海道医療大学, 歯学部, 助教 (40751160)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 薬物性歯肉増殖症 / カルシウム / イメージング / 炎症性サイトカイン / フェニトイン / NCX |
Outline of Annual Research Achievements |
抗てんかん薬フェニトイン(PHT)による薬物性歯肉増殖症は、服用者の約50%に発症するがその詳細は明らかではない。薬物性歯肉増殖とCa2+シグナルとの間に何らかの関係がある可能性が示唆されており、PHTがヒト歯肉線維芽細胞(HGF)の細胞内Ca2+濃度([Ca2+]i)を上昇させることが複数の研究室から報告されているが、そのメカニズムに関するコンセンサスは得られていなかった。 申請者はこれまでに、PHTがHGFにおけるCa2+排出機構の1つであるNa+/Ca2+交換体(NCX)を抑制し、その結果、細胞外へのCa2+流出が阻害され、[Ca2+]iが増加することが明らかにした。しかし、HGF における NCX を含む Ca2+/陽イオン輸送体 (CaCA) スーパーファミリーの発現は不明である。そこで本年度は、HGFにおけるCaCAスーパーファミリーのサブタイプを明らかにすることを目的として研究を進めた。従来のPCR解析では、HGFにおけるNCX1の発現が検出されたが、NCX2および3は検出されなかった。さらに、K+依存性Na+/Ca2+交換体であるNCKX1 および3、およびミトコンドリアNCXであるNCLXの発現も確認された。Real-time qPCRを用いて、これらのCaCAの相対発現レベルをさらに調査した結果、HGFの細胞膜に存在するCaCAスーパーファミリーのメンバーは発現量の多い順からNCX1、NCKX1および3であり、NCLXの発現も確認された。この結果は、NCX1がHGFの細胞膜上のCaCA スーパーファミリーの主要成分であることを示唆している。 本研究からPHTが主にNCX1を抑制し、HGFの [Ca2+]iの増加につながることが考えられた。NCLX、NCKX1および3もPHTによって抑制され、HGFの[Ca2+]i動態に部分的に寄与する可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
先行研究において、次世代シーケンサーを使った網羅的遺伝子発現解析を用いて、炎症関連物質とPHTの単独および相互作用によって変化する遺伝子や、PHTとCa2+シグナルに関与する新しいDIGE関連遺伝子を同定した。令和5年度は、この研究を発展させて①Ca2+イメージング法を使ったCa2+シグナルの解析(炎症に関与するオータコイド、サイトカイン、増殖因子などの刺激によるCa2+応答とPHTの増強作用を明らかにする。)、②Western blotting(WB)法を使ったMAPK系の解析(上記の刺激はMAPKやERKのリン酸化を起こすことが知られている。これらの反応におけるCa2+シグナルの役割と、PHTの作用を明らかにする。)を行う計画であった。しかし、自身の妊娠、出産のため、研究に確保できる時間を考慮し、以下のように実験計画を変更した。 先行研究において、PHTがHGFにおけるCa2+排出機構の1つであるNa+/Ca2+交換体(NCX)を抑制し、細胞外へのCa2+流出が阻害され、[Ca2+]iが増加することが明らかになっている。しかし、HGF における NCX を含む Ca2+/陽イオン輸送体 (CaCA) スーパーファミリーの発現は不明であったため、本年度は、HGFにおけるCaCAスーパーファミリーのサブタイプを明らかにすることを目的として研究を進めた。従来のPCR解析およびReal-time qPCRを用いた結果、HGFにおいてNCX1、NCLX、NCKX1、NCKX3が発現していることが明らかとなった。そのなかでも、細胞膜上のCa2+排出機構としてはNCX1が大部分を占めており、PHTによって生じる[Ca2+]iの上昇はNCX1を阻害することに起因している可能性が示唆された。これは、PHTによる[Ca2+]i上昇のメカニズムの解明のために重要な結果の一つだと捉えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に沿って、 令和6年度 実験①:Ca2+イメージング法を使ったCa2+シグナルの解析:炎症に関与するオータコイド(PGE2、ブラジキニンなど)、サイトカイン(IL-16)、増殖因子(EGF、TGFβなど)刺激によるCa2+応答とPHTの増強作用を明らかにする。実験②:Western blotting(WB)法を使ったMAPK系の解析:上記の刺激はMAPKやERKのリン酸化を起こすことが知られている。これらの反応におけるCa2+シグナルの役割と、PHTの作用を明らかにする。 令和7年度 実験③:DIGE関連遺伝子発現の解析:DIGEに関連する遺伝子としてコラーゲン、コラーゲン分解酵素のMMPs、MMPs阻害酵素TIMPsのmRNA発現をRT-PCRおよび定量PCRで解析する。実験④:長時間のイメージング解析:G-GECO等の蛍光タンパクを用いた長時間のCa2+イメージングシステムを使用し、培養条件下のHGFのCa2+応答とそれに対するPHTの作用を明らかにする。またG-GECOとFucciを同時発現させ、PHTによるCa2+応答と細胞増殖の同時測定を行う。 計画通りに進まない場合の対応として、小さな[Ca2+]i上昇や局所的な反応を確認する必要が生じた場合は、高感度なレシオメトリックなCa2+センサーであるYC-Nano50を実験に用いる。蛍光センサーの発現率が低い場合や、発現量の異なる細胞が多い場合は、セルソーターを使って一定量の蛍光センサーを発現する細胞を選別する。
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Causes of Carryover |
自身の妊娠、出産により当初予定していた学会参加を取りやめた結果、計画よりも旅費の支出が減少した。次年度も引き続き、国際学会への参加は計画していないが、可能な限りでの学会発表および論文作成に臨む予定である。 また、次年度以降は従来通りの物品費の支出に加え、遺伝子解析費用の支出が増えると思われる。今後必要となる解析費用は高額なため、本年度の残額を次年度以降に繰り越す形にはなるものの、有益に使用できると考えている。
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