2023 Fiscal Year Research-status Report
質量分析計でのステルス型VREを含む迅速検出と新規アウトブレイク解析システム構築
Project/Area Number |
23K16290
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
船島 由美子 国際医療福祉大学, 福岡保健医療学部, 講師 (70752814)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | VCM耐性腸球菌 |
Outline of Annual Research Achievements |
バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)のなかには、vanBを保有しているにもかかわらず、バンコマイシン(VCM)のMIC値が低感受性を示す腸球菌、いわゆるステルス型VREが存在し、問題となっている。現在の検査体制では見逃す可能性がある。ステルス型VREを見逃し、放置すれば、ステルス型VREが蔓延する危険性が高まるため検出体制の確立が必須である。そこで、本研究では遺伝子検査と同程度の解析性能を有する質量分析計を利用し、腸球菌の菌種同定検査の過程で発生する特異的なスペクトル波形の有無を確認することで、薬剤感受性試験で検出が見逃され易いステルス型VREを含めVREの迅速検出を目的に研究を進める。 本研究では、ステルス型VREを含むVREが疑われた菌株を対象にPCR法による遺伝子解析とMALDI-TOF MSによるマススペクトル解析を実施し、最終的には耐性遺伝子の特異ピークの検出から、日常検査レベルでのVREの迅速検出と薬剤耐性遺伝子の推定を想定している。 1.対象菌株(VREおよびNon-VRE)の収集と同定および薬剤感受性試験、2.収集菌株の耐性遺伝子確認、3.MALDI-TOF MSによるマススペクトル解析:MALDI Biotyperで対象菌株を測定し、マススペクトルデータを取得、4.耐性遺伝子およびクローン識別に特異的なピーク検出精度の向上:本検証過程で特異ピークを検出するための最適な方法を確立、5.VRE検出およびクローン識別ロジックの考案とプログラム開発:MALDI Biotyper付属ソフトウェアのflexAnalysisを用いて、全マススペクトルパターンを解析し迅速なVREの検出、耐性遺伝子型の推定、クローン識別プログラム開発までを実施する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対象菌株の腸球菌収集については本学関連施設の高木病院検査技術部、ひびきAMR研究会、ひびき臨床微生物研究会の協力を受け、ステルス型VREを含むVRE約50株およびNon-VRE約100株を収集し、今後も収集は継続していく。対象菌株は質量分析計の MALDI Biotyper(ブルカー)にて菌種同定を実施した。薬剤感受性測定には、臨床微生物検査室で様々な機種が利用されている。機種間差を明らかにするために、MicroScan WalkAway(ベックマン・コールター(株))、VITEK2 Compact( ビオメリュー・ジャパン(株))、ライサスS4(島津ダイアグノスティクス(株))、ドライプレート‘栄研’(栄研化学(株))、E-test( ビオメリュー・ジャパン(株))による5つの測定法を用いて薬剤感受性試験を実施した。詳細な解析については比較検討中であるが、機種によっては機種間差が認められた。この成績は臨床微生物検査室においては重要なことであり、感性を示し易い機種を使用している施設はVRE疑いの菌株を見逃してしまう可能性が高い。また、VREのスクリーニング検査にはスクリーニング培地の使用が有用とされているため、VREスクリーニング培地での発育状況をバンコマイシン低感受性のVREについて再確認を実施した。その結果、宮崎らの報告とは異なり、本邦で発売されているVREスクリーニング培地でも48時間以上培養すると検出は可能であったが、菌量が少ない場合には培地間で発育に差が認められた。本成績に関しては研究を補助した成田が第35回日本臨床微生学会総会・学術集会にて発表した。現在、対象菌株間の相同性を評価するためMLST解析を進めているが、7つの領域(adk、atpA、ddl、gyd、gdh、purK、pstS)の一部において菌株によっては増幅しない菌株が認められた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画としている3.MALDI-TOFによるマススペクトル解析:MALDI Biotyperで対象菌株を測定し、マススペクトルデータを取得する。マススペクトル解析には解析ソフトウェアであるClinPro Toolsを用いてクラスター間の相関性を解析し、耐性遺伝子およびクローン識別には特異的な波形ピークの有無を検出する。4.耐性遺伝子およびクローン識別に特異的なピーク検出精度の向上:本検証過程で特異ピークを検出するための最適な方法の確立を行う。3.により得られた特異ピークについては、エタノール・ギ酸抽出法のデータを基準とし、前処理方法等により検出精度に変化を生じるかを検証する。検証には、A.セルスメア法、B.オンプレート法、C.フィルター法(限外濾過膜により低分子タンパクを除去する)、D.タンパク濃縮法(硫酸アンモニウム等の沈殿剤を使用)の手法を用い、本検証過程で特異ピークを検出するための最適な方法を確立する。また、得られた特異ピークの質量からタンパクを同定し、VRE特異タンパクおよびクローン識別に関与するタンパク種別を明確にする。5.VRE検出およびクローン識別ロジックの考案とプログラム開発:MALDI Biotyper付属ソフトウェアのflexAnalysisを用いて、全マススペクトルパターンを解析し迅速なVREの検出、耐性遺伝子型の推定、クローン識別プログラム開発までを実施する。今後は特定地域で多数検出されたステルス型VREが同一菌株の蔓延なのか散発的な蔓延なのかを検証するため、MLST解析を更に進める。MLSTでは7つの領域(adk、atpA、ddl、gyd、gdh、purK、pstS)を増幅するが、一部において増幅しない菌株も認められた。現在、プライマーの再設計により7領域が増幅できることを確認できため、シーケンス解析を実施し、ST型を決定する予定ある。
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Causes of Carryover |
対象菌株を現在も収集中であるため、菌株がある程度収集できた段階で薬剤感受性試験を再度実施予定である。その際に、薬剤感受性試薬一式を購入予定である。
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