2023 Fiscal Year Research-status Report
プロテオーム解析によるナノプラスチックのリスクマーカー探索と生体影響の解明
Project/Area Number |
23K16309
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Research Institution | Jichi Medical University |
Principal Investigator |
北村 祐貴 自治医科大学, 医学部, 講師 (80802553)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ナノプラスチック / 炎症性腸疾患 / 炎症性サイトカイン / 酸化ストレス |
Outline of Annual Research Achievements |
ナノプラスチックは粒子径が100 nm以下の非常に小さなプラスチックである。環境中のナノプラスチックは海に捨てられた海洋プラスチックの破片から発生し、食物連鎖を通じて我々の体内に取り込まれていることが、近年問題となっている。経口摂取されたナノプラスチックは、消化管での炎症反応を増大させる可能性が懸念されるが、生体への影響については明らかになっていない。本研究では、炎症性腸疾患におけるナノプラスチックによる消化管での炎症反応機構を明らかにし、ナノプラスチックに対する影響を評価できるバイオマーカーを開発することで、リスク評価法の確立に貢献する。 ナノプラスチックよりも粒子径が大きいマイクロプラスチックでは、紫外線を照射すると細胞毒性が増大したことが報告されている(Sci Total Environ. 2022)。プラスチックが紫外線照射により光分解反応を起こし、表面の親水性が変化することで細胞への毒性が高まると考えられる。実際に環境中に存在しているナノプラスチックは海洋プラスチックが紫外線照射によって砕けることで生成するため、未照射のナノプラスチックよりも高い毒性を示すことが予想される。本研究では、環境中に存在するナノプラスチックを模倣した劣化ナノプラスチックを作製し、実環境を反映させたナノプラスチックの毒性評価を行う。本年度は、紫外線を人工的に照射した劣化ナノプラスチックを作製し、紫外線照射による粒子径、データ電位、表面構造などの物理的な性質への影響を評価した。また、炎症性腸疾患の共培養細胞モデルを作製し、劣化ナノプラスチックによる細胞への影響を評価した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ポリスチレン製の50 nmナノプラスチックビーズに波長250~450 nmの紫外線ランプを24時間照射し、劣化ナノプラスチックを作製した。劣化ナノプラスチックの粒子径は紫外線の照射時間によらず変化しなかったが、データ電位は照射時間に応じて負電荷が小さくなった。また、劣化ナノプラスチックではカルボニル基やヒドロキシ基が誘導されていることがフーリエ変換赤外分光光度計(FT-IR)によって観察された。さらに、劣化ナノプラスチックをヒト結腸癌由来(Caco-2)細胞とマクロファージ様(THP-1)細胞の共培養することで作製した炎症性腸疾患細胞モデルに24時間曝露し、上清を用いて細胞毒性試験を行った。その結果、劣化ナノプラスチックは未照射よりも細胞傷害性が増加することが明らかになった。紫外線劣化によりナノプラスチックの表面組成が変化することで細胞内に取り込まれやすくなり、高い細胞傷害性を示す可能性が示唆された。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きCaco-2細胞とTHP-1細胞の共培養による炎症性腸疾患細胞モデルにおける劣化ナノプラスチック曝露による影響を評価する。培養上清に放出されたインターロイキン(IL)-8、IL-1β等の炎症性サイトカインをEnzyme-Linked Immuno Sorbent Assay (ELISA)法により測定したが有意な変化は見られなかった。一方で、細胞内の活性酸素種が劣化ナノプラスチックの曝露によって増加した。今後は細胞内での炎症性サイトカインや抗酸化作用に関与する遺伝子発現についてReal time PCR法により評価し、分子メカニズムを解明する。さらに炎症性腸疾患モデルマウスの作製に着手し、in vivoにおける劣化ナノプラスチックによる腸管組織への影響を評価する。
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Causes of Carryover |
当初は共培養したCaco-2細胞を用いたプロテオーム解析を計画していたが、動物組織を用いることでナノプラスチックによる生体への影響をより反映したタンパク質を明らかにすることができると考えたため、動物実験を先行して実施することした。プロテオーム解析である蛍光標識二次元ディファレンスゲル電気泳動(2D-DIGE)で使用する蛍光色素試薬には有効期限があり、実験直前に購入する必要があるため、その費用分等を次年度に繰り越した。
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