2023 Fiscal Year Research-status Report
ヒト血清アルブミンによる有機リン系殺虫剤の死後の血中濃度変化の解明
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23K16373
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
山岸 由和 千葉大学, 大学院医学研究院, 特任助教 (50834470)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 有機リン殺虫剤 / 血中濃度 / ヒト血清アルブミン / 死後変化 / チロシン付加体 |
Outline of Annual Research Achievements |
有機リン系殺虫剤は高い急性毒性があるため自殺・他殺を目的に使用されることが多く、その中毒死を判断する上で死後直後の血中薬物濃度は極めて重要である。しかしながら、解剖されるまでに多くの薬物において死後経過時間に応じて血中薬物濃度が変化することが報告されているが、有機リン系殺虫剤における死後の血中薬物濃度変化は未だ完全に解明されていない。研究代表者は、血液中の薬物を高性能質量分析機器で網羅的に解析することで、死後に血中薬物濃度が変化するのは血中タンパク質の寄与があることを初めて解明した。さらに、ごく一部の有機リン系殺虫剤がヒト血清アルブミン(HSA)によって死後に血中濃度が減少することを見出し、有機リン系殺虫剤濃度に相関したバイオマーカーを確立することで、そのバイオマーカー生成量から死後直後の血中薬物濃度を明らかにした。 本研究では、40種類の有機リン系殺虫剤とHSAの相互作用を検討して、16種類の有機リン系殺虫剤malathion、DMTP、azinphos-methyl、etrimfos、fenthion、pirimiphos-methyl、(E)-dimethylvinphos、(Z)-dimethylvinphos、vamidothion、EDDP、fosthiazate、pyraclofosがHSAによって分解することを見出した。これは死後に16種類の有機リン系殺虫剤の血中濃度変化が起こることを示唆している。さらに、HSAの分解により生成される分解された有機リン系殺虫剤濃度に相関したバイオマーカー候補である5種類のチロシン付加体(Y-adduct1, Y-adduct2, Y-adduct3, Y-adduct4, Y-adduct5)を同定した。本研究成果は毒性学の国際誌であるToxicological Sciencesに掲載されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
HSA液中の40種類の有機リン系殺虫剤を高性能質量分析機器と統計解析で網羅的に解析すること、16種類の有機リン系殺虫剤malathion、DMTP、azinphos-methyl、etrimfos、fenthion、pirimiphos-methyl、(E)-dimethylvinphos、(Z)-dimethylvinphos、vamidothion、EDDP、fosthiazate、pyraclofosがHSAによって分解することを見出し、HSAの分解により生成される分解された有機リン系殺虫剤濃度に相関したバイオマーカー候補である5種類のチロシン付加体(Y-adduct1、Y-adduct2、Y-adduct3、Y-adduct4、Y-adduct5)を同定した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究で死後の分解が明らかになった有機リン系殺虫剤azinphos-methyl、etrimfos、fenthion、pirimiphos-methyl、(E)-dimethylvinphos、(Z)-dimethylvinphos、vamidothion、EDDP、fosthiazate、pyraclofos中毒死の血液を現在保有していない。そのため、計画を前倒しにして、判明しているバイオマーカー候補である5種類のチロシン付加体(Y-adduct1、Y-adduct2、Y-adduct3、Y-adduct4、Y-adduct5)の合成ならびに法医学分野で汎用的に用いられているLC-MS/MSでのバイオマーカー検査法の確立を令和6年度に実施する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額は令和5年度に計画していた問いである「HSAは死後にあらゆる有機リン系殺虫剤を分解するのか」及び「HSAの有機リン系殺虫剤を分解するメカニズムはなにか」が想定よりも順調に解明できたため生じた。 次年度使用額は計画を前倒しにして実施する判明しているバイオマーカー候補である5種類のチロシン付加体(Y-adduct1、Y-adduct2、Y-adduct3、Y-adduct4、Y-adduct5)の合成費用として使用する。
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