2023 Fiscal Year Research-status Report
老化予防を志向した新規化合物をドラッグリポジショニングによって創成する
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23K16781
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Research Institution | Hyogo Medical University |
Principal Investigator |
中尾 周平 兵庫医科大学, 薬学部, 助教 (90868605)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 老化 / ドラッグリポジショニング / 創薬 / Senolytics |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度の研究においては、臓器の中でも特に重要な心臓に対する細胞老化の抑制を狙い、ラット心筋細胞H9c2を用いて研究をおこなった。ヒト臍帯静脈内皮細胞HUVEC に対してクロシンがβ-Galを誘導する結果は有していたが、H9c2に対しては不明であったためクロシンがβ-Galを誘導できるかどうかを検討した。H9c2に対して、β-Galの存在量に比例して蛍光を発する化合物を利用し、コントロールとクロシン曝露群のβ-Gal発現量を比較したところ、クロシン暴露群 (250 μM) ではコントロール群の2倍強の蛍光量が確認され、H9c2に対してもクロシンによって細胞老化指標であるβ-Galを誘導出来ていることが確認できた。また、従来はクロシンに96時間曝露してβ-Galを誘導していたが、今回の誘導に要した時間は72時間となり、誘導時間の更なる短縮に成功した。クロシンが細胞老化を誘導できたと考え、老化細胞選択的に細胞死を誘導できるかどうかを指標として化合物ライブラリー (Fujifilm Wako, #7200, 175化合物) をスクリーニングした。H9c2にクロシン (250 μM, 72 時間) を曝露しライブラリー由来化合物を 10 μMで添加したときの生存率変化を、テトラゾリウム塩であるWST-8を発色基質としたアッセイ系で評価した。175化合物をスクリーニングしたところ、0.1%DMSOに72時間曝露した細胞群に比べて、クロシンに72時間曝露した細胞群において有意に細胞生存率が下がった化合物として抗マラリア剤であるメフロキン塩酸塩を見出した。 また、本研究の進行中に機械学習による定量的構造活性相関を検討できる環境が申請者の研究室に整ったため、上記アッセイ結果を元に化合物の老化細胞選択的な細胞死誘導活性を予測する機械学習モデルを構築中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
教育や運営にかかわる他の大学内業務のため、細胞実験系の構築がやや遅れている。具体的には、上記で述べたクロシンによる細胞老化誘導について、β-Gal以外に主要な細胞老化マーカーであるSASP (Senescence Associated Secretory Phenotype, 老化関連分泌表現型) やp16INK4aの上昇などを検討し、細胞老化誘導を複合的に評価する予定であったが、該当部分がまだ未完了である。該当部分が完了次第、先述したメフロキン塩酸塩の再評価も行い、更に強力な化合物を見出すことを狙ってスクリーニングを続ける。 なお、研究申請時には予期していなかったものの、機械学習による予測モデルを構築できる環境が整い、本研究にも応用できそうな点など期待以上の成果もあった。
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Strategy for Future Research Activity |
クロシンに暴露したラット心筋細胞H9c2に対して、選択的な細胞死を誘導する可能性がある化合物としてメフロキン塩酸塩を見出した。今後の検討方針として、大きく分けて次の点を考えている。即ち、1) β-Gal以外の細胞老化マーカーを踏まえた詳細な細胞実験を構築して、見出したメフロキン塩酸塩の細胞老化に対する効果を検討すると共に更に強力な化合物を見出すことを狙いスクリーニング範囲を拡大する。2) 現段階で見出したメフロキン塩酸塩をシード化合物として合成展開を行い、老化細胞選択性及び細胞死誘導活性の向上に着手する。3) マウスやキリフィッシュを用いたin vivoによる短期的及び長期的な抗老化活性評価を行う。 まずは細胞実験について、これまでの研究によりクロシンがH9c2やヒト臍帯静脈内皮細胞HUVECに対してβ-Galを誘導することを見出している。β-Galは代表的な細胞老化マーカーであるが、他にもSASPやp16INK4aの上昇などが有力な細胞老化指標であることが知られている。そこで、それらの老化マーカーを含めた複合的な評価によってクロシンの細胞老化誘導とメフロキンの抗細胞老化活性を再評価する。また本実験結果と他の研究者によって報告された抗細胞老化化合物のデータを組み合わせて機械学習を行い、精度の高い機械学習モデルの構築も続ける。構築した細胞実験系や機械学習モデルを使ってバーチャルを含んだ化合物スクリーニングを行い、メフロキン塩酸塩よりも強力な化合物を見出す。次に見出したメフロキン塩酸塩をシードとして新規誘導体を合成する。メフロキン塩酸塩はクロシン曝露細胞の生存率を低下させるが、その選択性は十分ではない。そこで、化学修飾を行うことで活性と選択制の向上を狙う。最後に、有望な化合物についてはin vivoにおける抗老化活性評価と毒性評価を行う予定である。
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Causes of Carryover |
先述したように細胞実験がやや遅れたため、次年度使用額が生じた。次年度は、遅れた分と合わせて研究を行うため、予定していた試薬を新たに購入して研究を継続する。
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