2023 Fiscal Year Research-status Report
Computational analysis of the neural mechanisms of social cues
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23K16984
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
森本 智志 慶應義塾大学, グローバルリサーチインスティテュート(三田), 特任助教 (90794230)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 社会的キュー / データ駆動型科学 / クラスタリング / 機能的近赤外分光法 / 分散表現 / 世論調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、社会的行動の分析過程における研究者の主観的判断によるバイアスを除外することが大きな主題であり、特に教師なし学習を用いた社会的行動の分節化と脳内計算過程のモデリングに焦点を当てている。まず関連するコミュニケーション研究の最近の動向を把握し、分析手法に関する知見を深めるため、多様な学会参加や文献調査を積極的に行った。調査を通じて、特徴量の分散表現へのエンベディングや、最適輸送による異なるマップ間の対応付けの有効性についてヒントを得ることができた。 そこで、分散表現を利用する行動分析手法のアイデアについて、実践的に検討を進めた。社会的行動データは極めて複雑であるため、第一ステップとしてより明快に解釈可能なデモデータで実施することとした。世論調査の自由記述回答を模擬したオンライン調査を一万人規模で収集し、既存の古典的な分散表現のひとつであるword2vecと確率密度に基づくクラスタリング手法を組み合わせた分析を行った。その結果、提案手法によってマイノリティーな関心事項をボトムアップに拾い上げることができ、別途取得した支持率や政策評価との関係性を評価することで、透明度の高い新しい世論調査を確立できる可能性が示唆された。今後、行動実験のデータでも同様の枠組みを検証していく予定である。 一方で神経基盤を検証するための脳活動計測については、機能的近赤外分光法のデータの時系列特性を生かした行動と脳活動間の関係の推定手法を提案した。実データに近い条件下でシミュレーションを実施し、提案手法の有効性が確認された。 また同時に、顔映像を用いる社会的キューの評価実験の準備も進めた。しかし別途実施していた共同研究プロジェクトにおいて、ロボットの単純な動作でも「社会的キュー」として機能する可能性が示唆されたことから、それを発展させたより統制しやすい実験の検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画では、初年度は主に顔表情の映像に対する視線計測実験を行う予定であった。しかし当初申請金額からの減額により、購入予定であった視線計測装置やPCのフルスペックでの早期導入が困難となったため、分析手法の確立を優先してスケジュールを組みなおした。別途進行していた他の研究プロジェクトから革新的なアイデアを得られたため、最終的には当初計画の実験は一旦保留し、より統制した実験系で社会的キューの計算過程をモデル化する方向性について検討を進めることにした。 分析手法の開発については、機能的近赤外分光法のデータ分析に関するシミュレーションを中心に実施し、学会発表を行った。進捗はほぼ当初計画通りである。また関連して、機能的近赤外分光法に関する解説記事の執筆依頼を受けて担当した。 一方で社会的行動の分析については、当初案にはなかったいくつかのアイデアを学会での議論を通じて発想できたため、その基礎的な検討を進めた。世論調査研究の機関雑誌から論文執筆の依頼を受けたため、行動データと当該分野の調査データの両方に親和性の高い、自然言語処理分野のモデルを用いて当該アイデアのひとつについて検証を行った。オンライン調査で取得したデータについて適用した結果を論文にまとめて投稿し、査読後年度末に採択された。 以上のように、当初計画からは変更はあるものの、順調に研究が進んでいるため、自己評価を(2)とした。
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Strategy for Future Research Activity |
ロボットを用いた社会的キューの実験は、予備的な検証実験の結果が良好であるため、今後本研究計画の中核プロジェクトとして進めることとした。現在、脳機能計測も含めて本実験に向けて準備を進めており、次年度前半より行動実験から順次実施予定である。秋以降、対外発表を行っていく。 機能的近赤外分光法のデータ分析手法については、現状の提案手法に残っているいくつかの課題を克服するため、深層学習モデルの導入を検討している。しかし、これまでのところモデルの学習がうまくいっておらず、データ数の課題も含めて現実的か慎重に検討していく。 現在は実験と分析手法開発がそれぞれ並行して進んでいる状況であるが、年度内にこれらを統合し、提案手法の妥当性が十分に示された場合はひとつの論文として国際雑誌論文への投稿を行う予定である。特にロボットを使った実験アイデアは、提案する情報量を用いた分析を行うことで、これまで疑問視されてきた脳活動の「同期」現象についてそのメカニズムを解明できる可能性があると考えている。 また、今年度行った世論調査研究と同様に、対象を問わず研究手法の初期アイデアを適用できる「解釈の容易な」実験・調査系を積極的に検討していく。特にオンライン実験は多数のデータを速やかに取得でき、モデルの検証に最適な側面もある。その他の実験との並行も容易であるため、特に時間を要する脳計測実験の実施時に並行して実験できるよう、準備を進めていく。
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Causes of Carryover |
当初申請予算の減額により、視線計測装置をフルスペックで購入することができなかった。そのため、研究計画自体も大幅な見直しと入れ替えを行った。また、急激な価格高騰に対処するため、一部計算資源の購入を次年度に回した。これらの結果により余剰が生じることとなった。 この余剰分は変更した実験計画において必要な計算資源の拡充や実験機器の購入、年度内に実施できなかった行動実験の謝金などに充てる予定である。
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