2023 Fiscal Year Research-status Report
樹木の標高適応に地下部微生物群集が果たす役割の解明
Project/Area Number |
23K17070
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Research Institution | Forest Research and Management Organization |
Principal Investigator |
執行 宣彦 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 研究員 (70866110)
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Project Period (FY) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 標高勾配 / 樹木実生 / 落葉分解 / ホームフィールド・アドヴァンテージ / 土壌微生物 |
Outline of Annual Research Achievements |
樹木は種によって分布域が大きく異なり、様々な環境に対して適応して生育している。しかし、落葉・土壌・根などの地下部の微生物群集が樹木の環境適応にどのような役割を担っているかは解明されていない。本研究では、標高で異なる生態を示すダケカンバをモデルとした野外及び室内実験により、植物と微生物のパフォーマンスの変化を調べ、樹木の標高適応が微生物との連携によってもたらされるかどうかを検証する。具体的には、以下の2つの目標を達成する。(1)各標高で特有な腐生菌群集による落葉分解の促進や窒素代謝関連の微生物群集による窒素無機化特性の変化があるかどうかを明らかにする。(2)実生と土壌の相互移植試験を行い、各集団で特有な外生菌根菌群集による効率的な窒素獲得と実生の生残や成長の向上が起きているかどうかを明らかにする。 令和5年度は、標高間でのリターバッグの相互移植研究を取りまとめ、樹木の生育地の土壌に特有な微生物叢が落葉を効率的に分解することを明らかにした。この結果は、森林の炭素動態に土壌微生物の構成の特有性が重要な役割を果たしていることを示す新しい知見であり、樹木と土壌のつながりを通じた落葉-土壌微生物間の適応的な関係が、落葉分解を制御する重要な要素であることを示している。また、当初の計画通り、山地帯と森林限界付近のダケカンバの種子を採取し、無菌根苗を作成する手法を確立した。無菌根苗は、30%過酸化水素水での殺菌時間を10分とすることで発芽率を下げることなく効率的に作成できることがわかった。また、水捌けの悪い環境はダケカンバの生育に悪影響を及ぼすようであり、マヨビン等を使用した閉鎖的な環境での生育は向かず、ポット等を使用した開放系での生育を行う必要があることがわかった。この手法を使用し、次年度以降、実生と土壌の相互移植試験を展開していく予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は、(1)の目標達成のため落葉と土壌を採取し土壌を封入した入れ子状のリターバッグ試験を開始することと、(2)の目標達成のためダケカンバ種子の採取と無菌根苗を作成する手法を確立することを計画していた。前者については、入れ子状のリターバッグの作成方法自体に検討を要することが分かったため、試験の開始に遅れが生じている。しかし、過去に行った標高間でのリターバッグの相互移植研究を取りまとめることができた。この研究では、樹木の生育地の土壌に特有な微生物叢が、それぞれの樹種の落葉を効率的に分解することを明らかにしており、これは本課題の達成に大きく貢献する想定以上の進展である。後者については順調に進展しており、山地帯と森林限界付近のダケカンバの種子を採取し、無菌根苗を作成する手法を確立することができた。以上のことから、研究全体としてはおおむね順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
入れ子状のリターバッグの作成方法を検討し、リターバッグ試験を開始する。また、令和5年度に確立した手法を用いて、ダケカンバ実生と土壌の産地を組み合わせたポットを室内環境で生育させる。
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Causes of Carryover |
リアルタイムPCR装置を想定よりも安価に購入することができたため。次年度はリターバッグの作成を追加で行うため、「物品費」の経費として使用する。
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