2023 Fiscal Year Research-status Report
魚類における雌性発生による致死的半数性を利用した不稔化技術の開発
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23K17382
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
藤本 貴史 北海道大学, 水産科学研究院, 准教授 (10400003)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
西村 俊哉 北海道大学, 水産科学研究院, 助教 (10758056)
田中 啓介 東京情報大学, 総合情報学部, 准教授 (60747294)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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Keywords | 精子 / 雄性前核 / 雌性発生 / 半数体 |
Outline of Annual Research Achievements |
・自然雌性発生における精子核脱凝集に関連する遺伝子の探索 魚類の受精のプロセスでは、精子特異的塩基性タンパク質によって凝集した精子核が卵由来のヒストンシャペロン等による脱凝集を経て雄性前核化し、雌性前核と合核により二倍体なる。自然雌性発生する魚種では雄性前核化の過程に遺伝的な変異が生じていることが予想される。本年度は自然雌性発生個体を行うクローンドジョウと野生型ドジョウの受精前の卵において発現量差がある遺伝子の特定を行うことを目標とした。まず、受精前の卵において精子前核化に関与するHIRAの転写産物の存否を確かめるために、ドジョウのhiraに対するRT-PCRによる確認を行った。また、当初は卵巣組織における転写産物の比較を行う予定であったが、体細胞組織や卵母細胞の発達段階の差異が遺伝子発現量の差として生じることが考えられたため、排卵された卵を解析対象とした。一方、排卵された卵では卵質による個体差が生じる可能性があることやクローン由来の卵では精子の前核化率に個体差があることから、野生型とクローンでは受精率と孵化率、クローンでは精の前核化率を調査することによりサンプル間の誤差を低減するように実験系を修正した。その結果、野生型では受精率、孵化率ともに高い良質な卵を得ることができたのに対し、クローンでは20個体以上から排卵誘起できたにもかかわらず、いずれも低受精率、孵化率であり解析に用いるための良質卵を得ることができなかった。 ・精子形成特異的遺伝子の選定 精子形成過程では、減数分裂が完了した精細胞から運動性を持つ精子へと劇的な形態変化が生じる。そこで、精子形成不全変異体を誘起することを目的とし、まずは哺乳類において精子形成の鞭毛形成に関与する遺伝子として知られているshippo1遺伝子のメダカにおけるホモログをCRSPR-Cas9によりノックアウト変異体の誘起を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
・自然雌性発生における精子核脱凝集に関連する遺伝子の探索 研究開始当初はクローンと野生型の卵巣を用いたRNA-seq解析を行い遺伝子発現量が異なる遺伝子を探索する予定であったが、RNA抽出に用いる卵巣の部位によっては卵母細胞の発達段階が異なるため、遺伝子発現の違いが発達段階の違いを反映する可能性が懸念された。そのため、発達段階が同一の卵母細胞を用いるために卵巣を単一の卵母細胞にまで細胞解離することを試みた。しかしながら、卵巣から解離した卵母細胞は一般的な細胞よりも細胞質が物理的な衝撃に弱かったため、均一な卵母細胞集団を得ることが困難であった。そこで、均一な細胞集団として排卵された卵に着目し、成熟に向けての飼育環境の整備を行い、多数の成熟個体を誘起することに成功した。しかし、前述の研究実績の概要で述べた通り、ホルモン投与によって多数の個体において排卵の誘起は成功したものの、受精率が低い卵群や受精率は高いものの胚発生過程で発生異常になる卵群だけが得られ、解析に供することが可能な卵質の卵を得ることができなかった。そのため、初年度に予定していたRNA-seq解析に供するためのサンプルの準備が間に合わなかった。 ・精子形成特異的遺伝子の選定 初年度は精子形成に関わる遺伝子のノックアウトに着手し、生殖細胞への変異導入候補個体を誘起した。この変異体はF0世代が成熟した段階で精子形成異常が生じた場合には、雄特異的な不妊化に有効な遺伝子であることがわかる。他にも精子運動に起因する不妊症の原因遺伝子の情報を収集し、他の遺伝子のノックアウト誘起に向けた基盤整備が進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
・自然雌性発生における精子核脱凝集に関連する遺伝子の探索 2023年度はクローン系統のドジョウから良質な卵を得られず、野生型の産する卵に含まれる転写産物との比較を行うことができなかった。この問題を解決するため、天然のクローンドジョウと野生型ドジョウを採取し排卵誘起に供することで良質な卵サンプルを獲得する。また、自然雌性発生を行うギンブナと両性生殖のキンギョについても繁殖期にサンプルの確保を行い、ドジョウとともにRNA-seq解析に供する。RNA-seq解析から得られたデータよりDEGの抽出を行い、自然雌性発生と両性生殖個体に由来する卵におけるqPCRによる発現量解析に供し雌性発生候補遺伝子の絞り込みを行う。当初計画ではメダカとドジョウを用いて雌性発生候補遺伝子のノックアウトによる機能検証を行う予定であったが、ドジョウのライフサイクルでは初年度の遅れによる影響によって研究期間中に機能検証に至らない可能性があるため、同じコイ目魚類のモデル魚種であるゼブラフィッシュをノックアウト試験で用いることとする。さらに、RNA-seq解析と並行して、遺伝子予測機能から雌性発生に関連することが予想される遺伝子を選別し、当該遺伝子のノックアウト変異体の誘起を行い雌性発生系統の樹立を試みる。 ・精子形成特異的遺伝子の選定 前年度に整備した精子運動に起因する不妊症の原因遺伝子の情報をもとに、当該遺伝子のノックアウト変異体の誘起を行う。本試験においてもドジョウではノックアウトのための卵の獲得が不安定であるため、ゼブラフィッシュをノックアウト変異体作出の代替として用い、精子形成不全を誘発する遺伝子の特定を行う。
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Causes of Carryover |
令和5年度には自然雌性発生を行うクローンドジョウと両性生殖する野生型ドジョウのRNA-seq解析を予定していたが、成熟誘導を行ったクローンドジョウが排卵した卵の受精成績と胚発生成績、孵化成績が著しく悪かった。正しく再現性がある結果を得るためには良質卵を解析に用いる必要があるため、当初は令和5年度に予定していた解析を行わなかった。また、もう一方の自然雌性発生を行うギンブナと両性生殖するキンギョのサインプルについても繁殖期での卵のサンプルが得られなかったため、ドジョウと同様の解析に供することができなかった。令和6年度には、この次年度使用額を令和5年度に予定していた解析やそれに関連する費用の支出に使用する。
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