2023 Fiscal Year Research-status Report
太古の光合成タンパク質の網羅的分光解析から読み解く生命と地球の共進化史
Project/Area Number |
23K17393
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
近藤 徹 東京工業大学, 生命理工学院, 講師 (30452204)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅井 智広 中央大学, 理工学部, 准教授 (70706564)
齊藤 諒介 山口大学, 大学院創成科学研究科, 助教 (90772385)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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Keywords | 生命と地球の共進化 / 大量絶滅事変 / 絶滅光合成生物 / 太古のタンパク質 / マルチモーダル顕微分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、マルチモーダル蛍光顕微鏡を開発し、地質試料中に残存する有機分子種を分光解析する。特に、色素分子を多数結合した光合成色素タンパク質をターゲットに据え、機能性を保持したタンパク質粒子の検出を目指す。初年度である当該年度は、蛍光強度・蛍光スペクトル・蛍光寿命でイメージングが可能なマルチモーダル共焦点顕微鏡を作製した。さらに、フェムト秒レーザー光を非線形光学結晶に集光させて広帯域な白色光を出力し、プリズムで分光することで、480~800 nm領域で波長走査ができる波長可変光源も開発した。また、フェムト秒レーザー光自体も700~900 領域に幅を持つ広帯域光なので、これを分光して波長可変光源として利用した。これらを組み合わせることで、480~900 nmの範囲で励起光の波長掃引が可能となり、非常に幅広い波長域で励起スペクトルを測定できるようになった。これらの装置開発に加え、地質試料の調整方法も改良した。鹿児島県の貝池の湖底から採取した地質試料を用い、ガラス基板への設置方法や測定手法の最適化を行うことで、地質試料の顕微分光実験系を確立した。そこで、約2億5千万年前のペルム紀末に生じた大量絶滅事変の年代に対応する地質試料の顕微分光解析を行った。可視光域から近赤外域までの幅広い波長領域で蛍光スペクトルおよび励起スペクトルを測定し、これまで観測されたことのない未知の信号の検出に成功した。今後は、これらの信号の同定を進めるとともに、極低温クライオスタットを導入して極低温顕微分光測定系を構築する。さらに時間分解顕微測定を行うことで、エネルギー移動などの機能性が保存されているかを確認する。これらに加え、当該年度は、マイクロ流路を用いた単一タンパク質顕微測定系の開発も進めており、光合成アンテナタンパク質・アロフィコシアニンの1粒子検出に成功した。これも今後さらに改良を進めて行く。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度となった当該年度は、蛍光の強度・スペクトル・寿命に加えて励起スペクトルが測定できるマルチモーダル型の共焦点顕微鏡を開発し、地質試料の顕微分光解析手法の最適化を行った。本課題の行く末を占う意味で、地質試料中に機能を保った光合成色素タンパク質が残存するかどうかを確認できるかが最初の最も重要な鍵となるが、約2億5千万年前の地質試料から有機物由来と思われる励起・蛍光スペクトルを観測でき、まずは大きなきっかけを掴むことに成功した。また、本課題の最大の強みは、光物理生物学・地球生命化学・光合成生物学という全くバックグラウンドの異なる3人の専門家がチームを組むことにあるが、当該年度は適宜オンラインミーティングで議論の場を設けながら進めており、相補的に連携しながら研究を進めるスタイルを確立できた。このように、本研究計画はおおむね順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度で基本となる顕微分光測定系を構築することができ、地質試料の顕微分光解析手法も確立できた。また、約2億5千万年前の地質試料から有機物由来と思われる励起・蛍光スペクトルを観測できた。そこで、今後は得られた信号の同定を進めていく。そのために、ラマンスペクトルと時間分解蛍光スペクトルが取得できるように顕微分光測定系の改良を進めて行く。さらに、極低温クライオスタットを導入し、極低温環境下でより詳細なスペクトル解析を行えるように装置改良を行う。これらに加え、地質試料から有機物質を抽出する新たな手法を確立する。様々な溶媒を用いた抽出方法を現在進行形で試しており、最適な条件を導き出す。特に、光合成色素タンパク質の抽出を目指し、生化学的なノウハウも織り交ぜながら手法を確立していく。抽出溶液に含まれる極微量な標的試料を解析するために、マイクロ流路を用いた単一粒子分光顕微法も開発しており、光合成アンテナタンパク質・アロフィコシアニンの1粒子検出ができるレベルに達している。そこで、より詳細な分光パラメータを得られるように、引き続き装置改良を進めて行く。
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Causes of Carryover |
初年度となる当該年度は、超低振動無冷媒オプティカルクライオスタットの導入のために全体予算の内の大部分を計上していた。しかし、他の研究プロジェクトでも超低振動無冷媒オプティカルクライオスタットが必要になったため、そちらの研究予算と合算して購入することとなり、当該研究費からの支出額が減ったことで、翌年度へ繰越す助成金が生じた。一方で、当該年度のうちに研究計画の第一段階である地質試料中に残存する有機物由来の分光信号の検出に成功したことで、次の段階として計画していた時間分解測定による機能性の評価実験へと進むことができるようになった。そのため、翌年度分として請求した助成金と合わせて時間分解測定系の開発を進めていく。特に、光学系の構築に必要な光学素子類(レンズ、ミラー、光学フィルター、ステージなど)、開発した装置の評価実験に用いる色素試薬類、地質試料から有機物質を抽出するための実験器具類や試薬類、抽出溶液を純化するための生化学実験物品および試薬類、などの購入費に充てていく予定である。
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[Journal Article] Oxygen increase and the pacing of early animal evolution2024
Author(s)
Kaiho Kunio、Shizuya Atena、Kikuchi Minori、Komiya Tsuyoshi、Chen Zhong-Qiang、Tong Jinnan、Tian Li、Gorjan Paul、Takahashi Satoshi、Baud Aymon、Grasby Stephen E.、Saito Ryosuke、Saltzman Matthew R.
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Journal Title
Global and Planetary Change
Volume: 233
Pages: 104364~104364
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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[Presentation] 酸素増加と初期の動物進化のペース2023
Author(s)
海保 邦夫, 静谷 あてな, 菊池 みのり, 小宮 剛, Zhong-Qiang Chen, Jinnan Tong, Li Tian, Paul Gorjan, 高橋 聡, Aymon Baud, Stephen E. Grasby, 齊藤 諒介, Matthew R. Saltzman
Organizer
地球環境史学会
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