2023 Fiscal Year Research-status Report
A novel fluorescence anisotropy imaging for imaging nano-scale LLPS in living cells
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23K17398
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
谷 知己 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究グループ長 (80332378)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
前島 一博 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 教授 (00392118)
井手 聖 国立遺伝学研究所, 遺伝メカニズム研究系, 外来研究員(客員研究員) (50534567)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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Keywords | 液液相分離 / 染色体 / 蛍光偏光 / 蛍光異方性 / 蛍光ライブイメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞内の分子間相互作用は、脂質膜や細胞骨格、オルガネラ等による区画化によって効率よく制御されている。近年新しい細胞内区画として、液-液相分離による液滴が注目されている。分子の出入りが可能なこの反応場で、情報伝達分子間の相互作用、酵素反応、遺伝子発現制御などが行われていることが明らかになりつつある。細胞内で発達した液滴は明瞭な輪郭をもつミクロンスケールの顆粒として光学顕微鏡で容易に観察できる。しかしながら、形成初期の液滴や遺伝子の転写に関わる液滴などは光学解像限界以下のサイズであり、液滴かどうかの判別が難しいものが多い。分子運動の自由度から、このような光学解像限界以下の小さな液滴を同定し、その構造やダイナミクスを可視化する光学顕微鏡法の開発が求められている。本研究の目的は、分子運動の定量法としてよく用いられる蛍光異方性測定を、研究代表者が開発した1分子蛍光偏光観察技術を応用して高感度化することにより、ナノスケールの液滴形成を可視化する、新しい蛍光異方性顕微鏡法として確立することである。確立した方法を、核内染色体や小体内部において転写やリボソーム合成プロセスに関連して形成される液滴の内部構造の解明に応用する。この光学顕微鏡法は細胞内の液滴形成機構を明らかにする上で極めて有効なアプローチとなるのみならず、さまざまな病原凝集体形成の原因となる液滴形成を早期に検出し、その発達を防止する研究などへの展開が期待できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は細胞深部にある染色体や核小体の分子動態を解明する、新たな光学顕微鏡の開発をすすめた。この目的に最も適した光学顕微鏡は、細胞深部を自由な偏光で励起する薄層ライトシート顕微鏡である。直線偏光の励起光を観察試料に照射し、得られた蛍光の偏光成分を高い消光比で定量解析する光学顕微鏡システムの開発が中心となった。現在開口数0.95の水浸対物レンズを用い、微細粒子の散乱光をライトシート偏光光学顕微鏡で観察した場合、得られた消光比は約1400と非常に高い値となった。 また2023年度においては、蛍光異方性計測に適した核酸の蛍光標識法についても検討を進めた。本研究ではCy3-dUTPによる標識法を利用する予定であった。DNA鎖に“固く結合”する蛍光分子としては、DNA塩基対にはまり込むインターカレーター蛍光色素が知られている。2023年度はDNA蛍光標識分子がどの程度DNA と固く結合し、DNA鎖の分子運動を反映するのかを検討した。10数塩基対程度の短いDNA鎖を同じ濃度のインターカレーター色素YOYO1で標識し、その蛍光異方性を蛍光偏光顕微鏡で測定した。また、小分子蛍光色素のフルオレセイン溶液と蛍光タンパク質GFP溶液で同様の蛍光異方性測定をおこない比較した。励起光に平行な蛍光偏光と直交する蛍光偏光の比はフルオレセインでは限りなく1に近く、GFPでは0.4付近であったが、短いDNA鎖と結合したYOYO1では0.67程度であった。同じDNA鎖の一塩基にリンカーを介して蛍光色素Cy2を標識した場合に測定された値は、自由な回転拡散運動をおこなうフルオレセインと同様、1に非常に近かった。塩基にリンカーを介して導入した蛍光色素の回転拡散は、ほぼ自由拡散する蛍光色素のそれに近いことから、DNAと固く結合する蛍光分子標識法の確立が、本研究課題の鍵であることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の課題は、染色体および核小体におけるDNA鎖の分子運動を忠実に反映する蛍光標識法の開発である。蛍光標識による分子配向観察や、対象分子の分子運動を反映した蛍光異方性を計測するためには、観察対象となる分子(DNA鎖)と蛍光標識分子が独立に回転拡散運動しない、特別な蛍光標識法が求められる。一般的な蛍光標識法においては、標的分子と蛍光分子をつなげるリンカー分子はある程度の柔軟性を持つため、標識された蛍光分子と、観察対象となる分子はある程度独立に回転拡散運動する。このため、リンカーを介した蛍光標識による蛍光異方性測定は標的分子の分子運動を反映しないことが多い。本研究提案に利用を検討しているCy3-dUTPによる染色体の蛍光標識法においてもこの可能性が考えられるため、2024年度はこの方法に加え、DNA鎖と固く結合するその他の蛍光標識法についても検討する。2023年の予備実験においてインターカレーター色素は有効と考えられるため、2024年度はこの蛍光色素を極低濃度で細胞内に導入し、DNA鎖と結合した分子の蛍光異方性を計測する観察実験をおこなう。またCAS酵素と蛍光タンパク質のキメラタンパク質による染色体DNAの蛍光標識も、DNA鎖の動態を反映した蛍光異方性を測定するために有望な方法と考えられる。2024年度は蛍光タンパク質の接続法の検討および、得られた蛍光プローブをDNA鎖と結合させて蛍光異方性を計測するin vitro観察実験系の確立を目標とする。
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Causes of Carryover |
研究代表者の実験遂行の時間および労働力の補助として、実験補助員の雇用を検討しているが、このための原資を確保するために、初年度は使用額を最低限の研究遂行に差し支えない範囲で抑えた。この結果、次年度使用額が発生した。
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