2023 Fiscal Year Research-status Report
One Healthを基盤とした海の人獣共通感染ウイルス学の創出~次なる脅威に備える~
Project/Area Number |
23K17441
|
Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
猪島 康雄 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (20355184)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岡田 彩加 岐阜大学, 応用生物科学部, 助教 (70784221)
下田 宙 山口大学, 共同獣医学部, 准教授 (40719887)
|
Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2027-03-31
|
Keywords | 海棲哺乳類 / 人獣共通感染ウイルス / One Health / 鯨類 / 鰭脚類 |
Outline of Annual Research Achievements |
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をはじめ、近年新しく出現したヒト感染症の7割以上は動物に由来する。COVID-19の次の脅威として、アザラシやイルカなど海棲哺乳類のウイルスがヒトに感染、蔓延、流行(パンデミック)することが強く危惧されている。しかし、海のウイルスの実態はほとんど不明であり、診断技術も乏しく、ウイルスを分離するための自然宿主由来の培養細胞もなく、基礎的な知見が蓄積されていない。 そこで本研究は、1)海棲哺乳類とその生息環境におけるウイルス感染・汚染実態を解明、2)各種海棲哺乳類の培養細胞を確立し、ウイルスを分離、3)各種診断法を確立、4)分離ウイルスのヒトへの感染リスクと病原性を解明する。これらにより、ヒト・動物・環境を一体とするOne Healthを基盤として新しく「海の人獣共通感染ウイルス学」を創出することに果敢に挑戦し、新たなパンデミックに備える。 本年度は、①各地の水族館で皮膚病変が観察された各種の海棲哺乳類から病変部を採材し、疑われる病原体の遺伝子検査を実施した。②水族館飼育ベルーガの呼吸器感染症の診断技術を検討した。③海棲哺乳類の病原体に対する血清診断技術を検討した。④海棲哺乳類の培養細胞の樹立を試みた。 その結果、以下の研究成果を得た。複数の水族館から皮膚病変部の検体を収集することができた。しかし、原因病原体を特定することはできなかった。不明だったベルーガの気管支走行を解剖学的に明らかにすることができた。また、気管支鏡検査を実施するための鎮静技術を確立することができた。アザラシなどの鰭脚類10種、イルカなどの鯨類5種、1動物種につき2~5個体、合わせて15種63個体から血清を収集し、プロテインAがそれらの抗体検出に有効であることを明らかにした。培養細胞は100代継代を目指して進行中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通りに、皮膚病変部の収集、病原体の遺伝子検査を実施した。また、呼吸器感染症の診断技術、および病原体感染に対する血清診断技術をそれぞれ検討した。さらに、培養細胞の樹立に向けて継代を続けた。 その結果、皮膚病変の原因となった病原体は特定できなかったものの、水族館とのネットワークの構築と採材器具と採材技術を共有することができた。また、これまで不明だったベルーガの気管支走行を解剖学的に明らかにすることや、最適な鎮静技術を確立することができた。さらに、血清診断の基礎となる海棲哺乳類の抗体検出方法を初めて明らかにすることができた。 従って、現在までにおおむね順調に計画が進捗していると評価できるから。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果をもとに、以下の研究を進める。 ①皮膚病変が観察される海棲哺乳類から病変部を収集し、疑われる病原体の遺伝子検査技術を改良し、一部は組織学的解析を追加する。 ②遺伝子が検出された検体は、病原体の分離を試みる。 ③ベルーガの呼吸器感染症の診断技術の確立をさらに検討する。 ④海棲哺乳類の血清診断技術の確立をさらに検討する。 ⑤海棲哺乳類の培養細胞の樹立に向けて継代を継続する。
|
Causes of Carryover |
当初計画では、各水族館・動物園等を訪問し、海棲哺乳類の培養細胞樹立のためのサンプルを採集する予定だったが、一部の施設では飼育スタッフや所属獣医師が採材を実施し、配送にてサンプルが運搬されたことから、旅費の支出が少なくなったため。 その分は、次年度の採材、研究成果発表の旅費として繰り越す。 また、培養細胞の樹立に必要な牛胎児由来血清(FBS)は、研究期間前に使用していたロットを使用したため消耗品費の支出が少なくなったが、その分は、次年度は培養する細胞種が大幅に増加すると予測されることから、新たなロットのFBSを大量購入するための消耗品費として繰り越す。
|
Research Products
(11 results)