2023 Fiscal Year Research-status Report
青銅器を直接試料とする炭素14年代測定の実現に向けた試料調製法の開発
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23K17516
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小田 寛貴 名古屋大学, 宇宙地球環境研究所, 助教 (30293690)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山田 哲也 公益財団法人元興寺文化財研究所, 研究部, 研究員 (80261212)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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Keywords | 青銅器 / 酸化還元反応 / 炭素14年代測定法 |
Outline of Annual Research Achievements |
炭素14年代測定法の対象は,木炭や紙,土器に付着した食物の残骸など,大気中の二酸化炭素から形成され,生命活動の停止に伴って大気との炭素交換も停止したという条件を有する生動植物遺骸である.故に,石器や陶器,また金属に訂起用することができない.唯一例外が鉄器であるが,これも鉄器に含まれる木炭の残骸を試料としている.また,鉄器と並んで人類の金属利用に重要な位置を占める青銅器には適用できないとされてきた.しかし,青銅表面に発生する緑青は,青銅中の銅と大気中二酸化炭素から形成されたものである.さらに,一旦形成されると緻密な皮膜を形成し新たな緑青発生を阻止するという性質を持っている.つまり,緑青は,動植物ではなく無生物であるが,炭素14年代測定法の対象試料となる条件を満たしているのである. この点に着目し,本研究では,炭素抽出法を開発することを第一の目的とした.緑青は,加熱や酸と反応することで二酸化炭素を放出することが知られている.しかし,これら加熱分解や酸による溶解では,青銅器に付着している土壌や,炭酸カルシウムのなど緑青以外の不純物に含まれる炭素までも二酸化炭素となってしまうため,正確な年代を得ることができないことが予備的な実験によって示された.そこで,本研究では,これら加熱分解法・リン酸分解法の改良に加え,酸化還元反応を利用し,緑青から炭素を二酸化炭素の形で抽出する方法を開発するところに第一の目的をおいた.また.その上で,年代既知の青銅器資料を試料として炭素14年代測定を実施する.その結果から,青銅器に対して炭素14法がもつ有効性を実証する点を第二の目的とした. 本年度は,緑青の加熱分解法の改良に重点を置き研究を進行した.その結果,通常の木や木炭などに比べると測定誤差がやや大きいものの,青銅器の定常的な炭素14年代測定が可能となった.この点が本年度の研究実績といえる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,まず,緑青からの炭素抽出法の開発を行う.炭素14法の試料調製においては,はじめに試料から炭素のみを真空中において抽出する.木炭や樹木の場合,試料を酸 化銅とともに真空中で燃焼させ二酸化炭素CO2とする.次いで水素と反応させてグラファイトを調製する.これを加速器質量分析計に装填し, 炭素14年代を測定する.すなわち,緑青からもCO2を発生させることができれば,炭素14年代測定が可能となるのである.加熱することで緑青中の炭素はCO2の形で放出されるが,高温では,青銅器に付着している土壌など不純物に含まれる炭素もCO2として放出され,正確な青銅器の年代が得られないことが明らかになった.そこで,温度を下げ繰り返し測定を行った.その結果,緑青からはCO2が放出されるが,不純物からは放出されない温度を決定した.加熱分解法を改良するという本研究の目的の一つは達成されたといってよい. ただし,回収できるCO2の量が少なく,通常のグラファイトによる炭素14年代測定で必要な量に達しないことがある.むろん試料の青銅器の量を増やせば,十分なCO2が得られるが,貴重な文化財のように破壊分析に供するす量に限界があるものや,コインなどのように元から量の少ないものには適用できない.そこで,より少量の炭素試料で14C年代測定が可能なセメンタイト化法という新興手法の適用を試みた.量の十分にある緑青を従来のグラファイト化法とセメンタイト化法で年代測定を行い,得られた数値を比較した.その結果,両者では炭素14年代の平均値に大きな差はないことが判明した.しかしながら,歴史資料で重要な測定誤差がセメンタイト化法ではグラファイト化法よりも大きくなってしまうという課題も示された. このように,加熱分解の測定法が改良されつつあることから,おおむね順調に進展していると判断できる.
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Strategy for Future Research Activity |
次年度以降は,主に四つの課題について研究を推進する. 一つ目は,加熱分解とセメンタイト化法を用いた少量試料でより測定精度の高い測定法を開発する点である.今年度は極少量の炭素試料からセメンタイトを合成して実験を行ったが,通常量の炭素試料からセメンタイトを調製し年代測定を行った場合の測定誤差を得ることで,グラファイト化法よりも測定誤差が大きい理由が,合成法の違いにあるのか,そもそも測定資料の量の少なさにあるのかを明確にしたい. 二つ目は,加熱に伴う土壌中不純物由来の炭素混入を防ぐための,常温における処理法,すなわちリン酸による緑青溶解法の開発を遂行する.ただし,今年度得られた予備実験を結果から,炭酸カルシウムと考えられる物質が緑青中に確認できた.炭酸カルシウムもリン酸により溶解するため,その炭素混入をいかに防ぐかが課題としてある.この課題の克服を遂行したい. 三つ目は,同じく常温における処理法で酸化還元反応を利用した緑青からの炭素抽出法の開発を遂行する.この方法では,CuCO3・Cu(OH)2という組成式をもつ緑青からこの組成式中のCのみを取り出す.申請者の知る限り,この方法を試みた研究は初めての例であるため具体的な試薬名は伏せさせていただくが,ある種の試薬を緑青および水蒸気H2Oとともにガラス管中に真空封入し,常温において緑青を分解させる方法であり,原理的には,土壌や炭酸カルシウム由来の炭素をCO2にすることなく,CuCO3・Cu(OH)2中の炭素のみをCO2として抽出できることが示されている.この酸化還元反応を利用した炭素抽出法の開発を推進する. 四つ目は,最終年度に集中的に研究を推進する予定であるが,次年度からもこれに着手する.これは考古学的に年代の判明している青銅器資料について炭素14年代測定を適用することで,青銅器に対して炭素14法がもつ有効性を実証する測定に着手する.
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Causes of Carryover |
本年度に計画していた役務提供が,年末から年度末の繁忙期に入り高額であったため,より低金額となる閑散期である次度前半での測定へと変更した.また,新型コロナウィルスの蔓延に伴い,年度初頭の学会への出張および資料採取のための野外調査をいくつか中止した.これらの理由に伴い,次年度使用額が 生じた.直接経費の次年度使用額分は,次年度前半に上記の役務提供に使用する.新型コロナウィルスの蔓延の状況にもよるが,次年度は資料採取・野外調査および国内外の学会への参加を計画している.そのため,次年度の研究費は当初の計画通りに使用する予定である.
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