2023 Fiscal Year Research-status Report
超分子を活用した水性二相系での酵素濃縮による超活性場の創出
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23K17849
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
若林 里衣 九州大学, 工学研究院, 准教授 (60595148)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 液-液相分離 / 超分子 / タンパク質 / 酵素反応 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、水系溶媒中で液-液相分離しドロップレットを形成する水性二相分離系を用いて酵素の局在を制御することで、酵素反応の自在制御が可能な反応場を構築することを目指している。研究代表者らは最近、自己組織化ペプチドが形成する超分子が水性二相分離系でサイズ依存的に相選択性を示すことを見出しており、これを酵素反応の環境場とすることで、超分子の形成や局在に応じた酵素の局在・反応制御が可能ではないかと考えている。 初年度である2023年度は、本提案の基盤となる超分子の構造と相選択性の相関を詳細に調べた。これまでの検討で、PEGとDextranからなる水性二相系で、自己組織化ペプチドが一次元に組織化し形成したファイバー状構造が、ファイバー間相互作用によりバンドル状へと高次に組織化することでDextran相に局在することを示している。そこで、この高次の組織化が局在を決める因子であると仮定し、それを制御する手法として静電相互作用を用いることを着想した。具体的にはpH条件で荷電状態を制御可能な配列をペプチド末端に導入した3種類の自己組織化ペプチドを設計・合成し、超分子の高次構造と相選択性の評価を行った。その結果、超分子形成や構造、高次組織化は末端ペプチド配列の荷電状態に依存すること、芳香環を導入したペプチドに関しては、芳香環間の相互作用によりマイクロメートルサイズの巨大な閉じた構造を形成することが確認された。また相選択性に関しては共存塩の影響もあるが、高次に組織化するとDextran相に移行する傾向があることが確認され、超分子の構造制御による相選択性制御への可能性が示唆された。 以上の結果に関し、国内学会での研究成果発表を4件行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、超分子の構造と水性二相系での相選択性制御、および超分子への酵素吸着による酵素反応性の制御という二つの大きな柱からなる。2023年度は、一つ目の超分子の構造と水性二相系での相選択性制御に注力した。超分子の高次組織化を自在に制御するために静電相互作用の利用を着想し、pH条件に応じた超分子の構造評価と相選択性の観察を行った。結果、超分子表面の荷電状態に応じて高次構造形成の制御が可能であること、高次構造形成に伴い相選択性が生じることが確認され、超分子設計による相選択性制御という一つ目の目標達成に大きく前進した。また、この結果に関し、国内学会での成果発表を4件行っている。 以上の状況から、現在までの進捗状況をおおむね順調に進展していると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度までに、一つ目の目標である超分子設計による相選択性の制御が可能であることが示唆されたため、2024年度はこれを用いた酵素の局在制御と反応場構築を目指す。まず新しく合成したペプチド超分子に対して、様々なサイズ、電荷、立体構造を持つタンパク質の吸着を調査し、超分子への吸着性に影響するタンパク質の物性に関する情報を得る。吸着の評価はバイオレイヤー干渉法による相互作用解析、蛍光修飾タンパク質を用いた顕微鏡観察、分子シミュレーションを用いた相互作用部位解析により行う。また、各種タンパク質自身が持つ水性二相系での局在性も顕微鏡観察や高速液体クロマトグラフィー法により評価する。超分子への吸着が十分でない場合、タンパク質へのタグ導入、電荷の改変、塩の添加などを検討する。 超分子へのタンパク質吸着に関する十分な情報を得た後、これを用いて連続酵素反応の制御を行う。まずモデルとして、Glucose oxidaseとHorseradish peroxidaseのカスケード酵素ペアを用い、グルコース存在下で色素ABTSの呈色反応により活性を評価する。酵素と超分子の混合比等の最適化を行う。最後に本系を用いて有用物質合成に挑戦する。グルコースからピルビン酸を得る反応を触媒する3種類の酵素、Glucose dehydrogenase、Dihydroxyacid dehydratase、D-2-keto-3-deoxy-gluconate aldolaseを本系に適用し、ピルビン酸の生産量により超活性を評価する。
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Causes of Carryover |
当初の研究計画では、超分子とタンパク質の合成を並行して行う予定にしており、初年度の計画にタンパク質の調製を含めていた。そのため、タンパク質調製に必要な試薬類、消耗品費を計上していた。しかしながら、本研究遂行にあたり、超分子の構造制御と相選択性が根本をなすことから、これに注力することが重要であると再考し、2023年度は超分子合成とその評価をメインに行った。以上の事情により、主にタンパク質合成に関連する物品費ならびに実験補助者の人件費が次年度使用額として生じた。2024年度はタンパク質合成と評価を行う予定であるため、これらの物品費と人件費を有効に使用し進める。
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