2023 Fiscal Year Research-status Report
カチオン・アニオン配列低秩序化の特異性を利用した蓄電池材料の革新
Project/Area Number |
23K17954
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
藪内 直明 横浜国立大学, 大学院工学研究院, 教授 (80529488)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2025-03-31
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Keywords | 蓄電池 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では従来型の層状材料、つまり、カチオンが "高秩序" に配列した二次元型構造からの脱却、及び、新概念としてカチオン・アニオンが "低秩序" に配列した不規則岩塩型のような、三次元の強固な骨格を有する新しい材料群に関する研究を遂行した。これら、低秩序型材料について、学術的な観点から各種の材料設計指針を確立し、その成果を元に従来材料では達成不可能な、高電圧化、高容量化、超寿命化を兼ね揃えた新しいインサーション電極材料の実現が期待できる。現在、多くの商用リチウムイオン電池でリチウムイオンを含有した層状構造の材料が用いられている。固体中から全てのリチウムを脱離させると、層間距離が大幅に減少し、結果として大きな体積変化と粒子の脆性破壊に繋がることが知られている。このような異方的な体積変化は高秩序構造に由来するものであることから、材料の構造としては低秩序な三次元骨格材料を利用した材料設計を実現する。このような材料はNbのようなd電子を持たないイオンを導入することで安定化が可能であり、本年度は低秩序材料として Li1.1Mn0.8Nb0.1O2 などの材料の評価を進めた。ナノサイズ化したLi1.1Mn0.8Nb0.1O2 は高エネルギー密度と実用的なサイクル特性を有することが確認され、その成果は高インパクトファクター学術誌である Advanced Energy Materials に掲載された (DOI: 10.1002/aenm.202304074)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本課題に関連して開発された 低秩序構造を有するナノサイズ Li1.1Mn0.8Nb0.1O2 に関する研究成果は高インパクトファクター学術誌である Advanced Energy Materials に掲載 (DOI: 10.1002/aenm.202304074) されており、学術的に優れた成果であることを示しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
低秩序型構造では、高秩序構造の材料とは異なり、多種多様なイオンの配列が存在することから、直線的な Ni-O-Ni や Co-O-Co といった特異的な結合が形成、さらに、同結合の反結合性が強いため、酸素が電荷補償を担う (アニオンレドックス) 反応が高電圧で可逆的に進行することをこれまでに明らかにしている。これは従来材料でのニッケル種のカチオンレドックスとは対象的な現象であり、このような反応を利用することで高電圧化・高密度電荷蓄積 (高容量化) の実現が期待できる。また、三次元低秩序材料はリチウム脱離時の体積変化が等方的であるという特徴を有している。ある種の遷移金属イオンは充放電時の酸化数変化に伴い収縮し、イオン半径変化をトリガーとして、イオンは隣接した面共有している四配位サイトへ移動することで安定化する。その結果、カチオン・アニオン静電相互作用が変化し、イオンの移動は反対に格子を膨張させる要因となる。電気化学的反応を駆動力としたイオン収縮と移動、それに伴う静電相互作用を制御することで、理論的には高容量と格子の膨張・収縮の抑制は両立可能であると考えられ、予備的な検討結果として、格子体積変化が無く、従来のインサーション材料では実現不可能な長寿命な材料も見つかっている。今後、低対称性材料でのみ可能となる新たな材料設計指針を確立し、さらなるエネルギー密度の向上に加え、インサーション材料の膨張・収縮を制御するための学術的方法論の確立を進める。
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Causes of Carryover |
論文のオープンアクセス費用などでの支出を考慮していたが、転換契約によりオープンアクセスは大学負担となった。また、非常に効率的に研究が進展したこともあり、追加での高価な電解液の購入なども必要とならなかったため。
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