2023 Fiscal Year Research-status Report
ネオスポラ感染症に対する環境を汚染しない新たな弱毒生ワクチンの開発研究
Project/Area Number |
23K18071
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Research Institution | Obihiro University of Agriculture and Veterinary Medicine |
Principal Investigator |
西川 義文 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 教授 (90431395)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
潮 奈々子 帯広畜産大学, 原虫病研究センター, 特任助教 (00941428)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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Keywords | 原虫 / ネオスポラ / ワクチン / ベクター |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国で対策の必要な家畜原虫病としてネオスポラ病があり、水平・垂直感染によるウシなどの家畜の流産が問題となっている。そこで本研究ではネオスポラ感染症を対象とし、応募者が確立したネオスポラ用遺伝子編集技術を基盤として、「体内伝搬しない」、「潜伏感染しない」、「有性生殖しない」特徴をもつ次世代の弱毒生ワクチン株の開発を目指している。2023年度は以下の項目を明らかにした。 「体内伝搬しない」特徴をもつ次世代の弱毒生ワクチン株を作製するために、抗原特異的モノクローナル抗体の処置によりネオスポラの宿主細胞感染が低下する実験データに着目した。原虫の表面抗原NcSAG1は宿主細胞への接着・侵入に関与する分子であり、CRISPR/Cas9系によりNcSAG1欠損原虫株(NcSAG1KO)を作製した。NcSAG1遺伝子の欠失は、原虫の宿主細胞への感染率を有意に低下させ、感染細胞から原虫の脱出率を低下させた。非妊娠雌雄BALB/cマウスを用いたin vivo試験では、NcSAG1KO感染マウスは親株感染マウスに比べて生存率が有意に高く、体重変化も少なかった。また、BALB/cマウスの垂直感染モデルについては、NcSAG1遺伝子を欠失させることにより、仔マウスの生存率が有意に向上し、仔マウスの脳内の原虫感染が大幅に低下した。次に、NcSAG1KO株接種後45日目にネオスポラの攻撃試験を行いマウスの脳内原虫数を比較したところ、ワクチン株未接種マウスと比較してNcSAG1KO株接種マウスの脳で原虫数の有意な減少が認められた。以上より、NcSAG1がネオスポラの体内伝搬および病態形成における重要な分子であり、NcSAG1KOは弱毒生ワクチン株の候補となることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、候補遺伝子の欠損原虫を作製しマウスでその病原性の低下を確認、次に攻撃試験による生ワクチンの効果の検証を予定していた。2023年度は下記のように、NcSAG1KOは弱毒生ワクチン株の候補となることが示された。 抗原特異的モノクローナル抗体の処置によりネオスポラの宿主細胞感染が低下する実験データに着目した。原虫の表面抗原NcSAG1は宿主細胞への接着・侵入に関与する分子であり、CRISPR/Cas9系によりNcSAG1欠損原虫株(NcSAG1KO)を作製した。NcSAG1遺伝子の欠失は、原虫の宿主細胞への感染率を有意に低下させ、感染細胞から原虫の脱出率を低下させた。非妊娠雌雄BALB/cマウスを用いたin vivo試験では、NcSAG1KO感染マウスは親株感染マウスに比べて生存率が有意に高く、体重変化も少なかった。また、BALB/cマウスの垂直感染モデルについては、NcSAG1遺伝子を欠失させることにより、仔マウスの生存率が有意に向上し、仔マウスの脳内の原虫感染が大幅に低下した。次に、NcSAG1KO株接種後45日目にネオスポラの攻撃試験を行いマウスの脳内原虫数を比較したところ、ワクチン株未接種マウスと比較してNcSAG1KO株接種マウスの脳で原虫数の有意な減少が認められた。 以上より、NcSAG1がネオスポラの体内伝搬および病態形成における重要な分子であり、NcSAG1KOは弱毒生ワクチン株の候補となることが示唆されたため、「おおむね順調に進展している」と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は潜伏感染しない原虫株の作出を予定している。ネオスポラ病で問題となるのが原虫の中枢神経系および筋組織での潜伏感染であり、妊娠期の免疫抑制により原虫が再活性化されて流産あるいは垂直感染が起こる。具体的には、活動期のタキゾイト(Tz)が休眠期のブラディゾイト(Bz)に変換することでシスト化による潜伏感染が起こり、再活性化によりBzからTzへの逆変換が起こる。ネオスポラNcLiv株は、20 μMニトロプルシドナトリウム(SNP)の添加により8-10日でin vitroでTzからBzへの変換が可能である。 そこで、gRNAライブラリーをNcLiv-Cas9にエレクトロポレーションで導入し、SNP処理によりBz変換を誘導する。NcLiv-Cas9はBz期に作動するブロモーターBAG1でGFPが発現するように設計されており、セルソーターによりGFP陽性原虫(Bz)とGFP陰性原虫(Tz)を分離し、それぞれの原虫ポピュレーションからゲノムDNAを調整し、ゲノム解析によりGFP陰性原虫で特異的に見出されるgRNAを検出することで候補遺伝子を5種類程度選択する。候補遺伝子の欠損原虫については株化を行い、再度マウスに感染させて、マウスの生存率の上昇とシストの形成不全を確認する。シスト形成が最も低下した株を免疫し、Nc1-Lucで攻撃試験を行い、ルシフェラーゼ発現を指標にしてワクチン株の感染防御効果を検証し、追加の遺伝子欠損により「体内伝搬しない」かつ「潜伏感染しない」原虫株を作製する。
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Causes of Carryover |
ガイドRNA(gRNA)ライブラリーを用いたin vivo CRISPRスクリーニング系を構築する実験に再検討の必要性が生じたため、当初予定していた実験内容を中断したことから次年度使用額が生じた。当該試験は2024年度に実施予定である。
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