2023 Fiscal Year Research-status Report
細胞集団の時空間的自己組織化に関する合成生物学的研究
Project/Area Number |
23K18144
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Research Institution | National Institutes of Natural Sciences |
Principal Investigator |
藤田 浩徳 大学共同利用機関法人自然科学研究機構(機構直轄研究施設), アストロバイオロジーセンター, 助教 (10552979)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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Keywords | 走化性 / 多細胞化 / 自己組織化 / パターン形成 / 合成生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸菌株RP437は、Asp(アスパラギン酸)への走化性により、定常的な周期的コロニーパターンを自己組織化することが知られている。この知見を基盤として、研究代表者はこれまでに、Asp合成欠損株にAsp合成遺伝子の発現誘導プラスミドを導入することにより、一定の大きさの細胞集団(コロニー)が培地上を移動する現象(“移動コロニー”)を見出した。この現象は、バクテリアでは同様の報告がない新規の現象であり、単細胞生物から多細胞生物への進化のユニークなモデル系となると考えられる。 しかしながら、当初の実験目的とは異なっていたため、用いた実験系は非常に複雑であった(①5重変異体大腸菌に、②自己制御的な誘導プロモーターを用いて、③gfpおよびssrA(不安定化モチーフ)を融合したAsp合成遺伝子を誘導)。そこで、より単純な実験系において同様の表現型が再現できるかの検証を行った。その結果、①2重変異体に、②単純なアラビノース誘導プロモーターで、③インタクトのaspCを誘導、の非常に単純な系において表現型の再現が確認された。このことは、“移動コロニー”は走化性により誘導される現象として高い普遍性を持っていることを示唆している。しかしながら、系が単純になるにつれて移動行動も単純になる傾向が観察されるので、系の複雑性は行動の複雑性に影響していると思われる。 さらに、この現象の普遍性を検証するために、野生株においても誘導できる培養条件の検討を行った。検討した多くの培養条件において効果は認められなかったが、“移動コロニー”を誘導する可能性のある培養条件が確認できたことから、今後その詳細の検証を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大腸菌において、Asp合成遺伝子誘導系を構築し、それが新規現象の“移動コロニー”表現型を誘導することを見出した。また、その表現型が非常に単純な誘導実験系でも再現され、さらには野生株においても誘導可能な培養条件を確認した。これらにより、“移動コロニー”表現型が走化性誘導の現象として普遍性が高いことを明らかにし、その形成機構解明の基盤が整った。
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Strategy for Future Research Activity |
野生株において、“移動コロニー”表現型を誘導する培養条件が確認されたことから、その詳細な効果を検証し、この表現型の普遍性を明らかにしていく予定である。また、これまでは主にスポット植菌によるパターン形成を検証してきたが、それとは異なる一様植菌による影響も検証する計画である。 さらに、パターン形成機構の理解において、数理モデル解析は強力な研究手法の一つである。そこで、今回見出した新規現象“移動コロニー”が数理モデルにより説明できるかを、先行研究を参考にしつつ検討する予定である。
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Causes of Carryover |
年度の途中で大型機器(クリーンベンチ )を購入することとなったが、その時点で当該年度予算では不足していたため、翌年度分と合わせて購入する経緯となった。
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