2023 Fiscal Year Research-status Report
グルタミン酸・GABA共放出シナプスで両神経伝達物質は同じ小胞に充填されるか?
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23K18167
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
橋本谷 祐輝 同志社大学, 研究開発推進機構, 准教授 (50401906)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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Keywords | 海馬 / 乳頭体上核 / 歯状回 / 共放出 / シナプス小胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般に神経系において「1つのニューロンは1種類の神経伝達物質を合成・放出する」と考えられてきた。これをデールの原理と呼び、長らく信じられてきた。しかし近年の研究によると、必ずしもこの原理に当てはまらない事例が多々あり、予想以上に「1つのニューロンが複数の神経伝達物質を合成・放出する」ことがわかってきた。その中でも我々が研究している歯状回の主要出力細胞である顆粒細胞は皮質下の乳頭体上核から入力を受ける。この投射がグルタミン酸とGABAを同じ神経終末から放出することがわかっている。しかし、どのようににして二つの異なった神経伝達物質が放出されるのかよくわかっていない。 令和5年度の研究では顆粒細胞からホールセル記録を行い、光遺伝学的方法により乳頭体上核からのグルタミン酸作動性とGABA作動性のシナプス伝達を光刺激によるチャネルロドプシン2の活性化によって別々に記録し、それぞれの放出特性を調べた。その結果、放出確率やカルシウム感受性において両者の放出に差があることがわかった。さらにGタンパク質共役型受容体のうち代謝型グルタミン酸受容体とGABAB受容体をそれぞれにアゴニストで活性化させてシナプス伝達抑制を誘導すると、グルタミン酸作動性とGABA作動性のシナプス伝達において抑制強度に差があることがわかった。以上の結果はグルタミン酸とGABAが別々に放出されることを示唆する結果である。今後さらに詳しい分子メカニズムを調べる予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上述のように令和5年度の実験によって乳頭体上核ー歯状回顆粒細胞シナプスにおけるグルタミン酸とGABA共放出において、放出特性を調べた結果、それぞれに違いのあることがわかった。もしも両神経伝達物質が同じ小胞に貯蔵されており、同時に放出されるとすれば、このような観察された差は生じない。したがって、我々のこれまでの実験結果はグルタミン酸とGABAが別々に放出されることを示唆するものであり、本研究計画が目的とする共放出のメカニズムを明らかにするうえで前進したと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は乳頭体上核ー歯状回顆粒細胞シナプスにおいて、グルタミン酸とGABAが別々に放出されることをさらに明らかにするために、これまでの手法と異なりシナプス入力を極限まで弱くし、確率的にシナプス伝達が誘導されるような実験条件を確立する。このような量子的なシナプス応答計測をすることによって、グルタミン酸作動性とGABA作動性のシナプス伝達が同時に起こるのか、あるいは別々に起こるのかを観察することによって、グルタミン酸とGABAの共放出のメカニズムをさらに詳細に調べる予定である。
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Causes of Carryover |
研究計画のシナプスにおけるグルタミン酸とGABAの神経伝達物質放出機構に予想外の差があることがわかり、その確認のための基礎実験を予定よりも時間を費やして行なった。そのため当初予定していた額より使用額が少なくなった。 次年度は予定していた試薬や実験装置に使用する計画である。
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