2023 Fiscal Year Research-status Report
鉱物ダストの被覆量・組成に着目した気候モデルの開発と気候影響評価の刷新
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23K18519
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
松井 仁志 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (50549508)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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Keywords | 気候変動 / エアロゾル / 鉱物ダスト / 粒子特性 / 全球気候モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
砂漠域などから放出される鉱物ダスト(黄砂など)は、放射の散乱・吸収、雲・降水過程、雪氷面の加熱率、生態系の一次生産などを変化させ、地球の気候に大きな影響を及ぼす。しかし、これらのダストの気候影響の推定には大きな不確実性があり、地球温暖化などの気候の変化・変動を予測する上で重要な不確定要素の1つとなっている。特にダストの粒径、他のエアロゾル成分による被覆量、鉱物組成は多様であり、このような個々の粒子の特性が鉱物ダストの気候影響に対して果たす役割の理解は乏しい。本研究では、ダストの被覆量や組成などの個々の粒子の特性を詳細に計算可能な気候モデルを開発し、ダストの粒子特性(粒径・被覆量・組成)がダストの時空間分布や長距離輸送過程などに及ぼす影響を評価する。そして、ダストが放射・雲過程に与える影響や、放出源から長距離を輸送されて雪氷圏や生態系に及ぼす影響の推定を高精度化することを目指す。 令和5年度は、これまで開発してきた全球気候-エアロゾルモデルCAM-ATRASを用い、ダストの被覆状態や鉱物組成をモデルで表現する手法を検討した。特に、従来のモデルにおいて単一の組成を持つとして扱われてきたダストの鉱物組成について、複数の鉱物組成に分類し、光吸収性の強いヘマタイトや、氷晶核になりやすい長石などを区別して表現する方法の検討を行った。また、ダスト組成の全球データベースを用いて、地表面における鉱物組成の全球分布のデータを作成した。そして、多数のダスト組成を扱えるモデルへと拡張させるために、様々なダスト組成の放出・輸送・変質・除去過程を個別に計算できるモデルの開発に着手した。さらに、様々な地上のエアロゾル・放射観測、航空機観測、衛星観測のデータを収集し、今後のモデル計算の検証を進めるための準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和5年度は、これまで開発してきた全球気候-エアロゾルモデルCAM-ATRASを用い、主にダストの鉱物組成を詳細に表現する手法を検討し、モデル開発に着手した。また、このモデル開発・検証に必要な鉱物組成の全球データベースや様々なエアロゾル観測データを収集・整備した。これらの内容は、おおむね計画通りであり、今後の研究をスムーズに実施するために不可欠な内容である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまで私が独自に開発してきたスス粒子の粒径と被覆量を詳細に表現する先端的な手法を活かし、ダストの粒径分布と被覆量の両方を多数のビンを用いて表現するモデルの開発を進める。また、従来単一の平均的な鉱物組成として扱われてきたダストを個別の鉱物組成に分類して表現するためのモデル開発を継続的に実施する。これらのモデル開発を通して、ダストの光学特性と雲核特性の粒径・被覆量・組成に対する依存性を理論に基づいて計算可能にする。 また、開発した新たな気候モデルを用い、現在の気候条件に対応する計算(2011~2020年を想定)を行う。様々な地上・航空機観測を用い、数値モデルで計算されるダストの粒径分布や被覆量、組成などの検証を行う。また、衛星観測や地上放射観測を用いて、数値モデルで計算されるダストの鉛直分布、光学的厚み、光吸収による光学的厚み、長距離輸送過程などの検証を行う。 ダストは、大気圏内での気候影響(放射・雲との相互作用)だけではなく、雪氷に沈着することによって雪氷の融解や雪氷圏の温暖化を加速する効果があることが指摘されている。また、ダストに含まれる鉄やリンが海洋・陸域の生態系の一次生産に影響を及ぼし、大気-海洋-陸域間の炭素循環を変化させ、長期的な(数百~数千年の)時間スケールでも気候に影響を及ぼすことが指摘されている。このように、ダストは気候を構成する様々な要素を通して気候の変化・変動に大きな影響を与えると考えられているため、鉱物ダストの粒子特性の高度化を通してダストの時空間分布や気候との多圏相互作用の推定精度を向上させることの意義は大きい。
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Causes of Carryover |
令和5年度のモデル開発・計算について、過去および関連する他の研究課題などで購入した計算機資源を効率的に用いることにより、年度内の研究計画を十分に遂行できることがわかった。このため、当初計画で初年度に計上していた物品費等を大幅に削減することができたために未使用額が生じた。これらの未使用額は、今後のモデル開発・検証やダストの全球分布とその気候システムへの影響評価において、詳細な計算・出力・解析などを行うために使用する計画である。具体的には、モデル計算を行うための大型計算機使用料、計算結果の出力を保存するためのハードディスクドライブ(計算機関係消耗品)等の項目に使用する予定である。
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Research Products
(6 results)