2023 Fiscal Year Research-status Report
Understanding the mechanism of low-dose radiation effects using fluctuation-based analysis
Project/Area Number |
23K18522
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
渡邉 朋信 広島大学, 原爆放射線医科学研究所, 教授 (00375205)
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Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
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Keywords | 放射線被ばく障害 / 揺らぎ解析 / 予防医学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、生命科学における研究戦略に、揺らぎの「概念」を導入することである。より具体的には、ヒト人工多能性幹細胞(iPS細胞)に対する低線量域放射線照射による心筋分化後の晩発性機能不全発症を実験対象とし、機能不全を計測データの「揺らぎ」により発症以前に検出し、さらに、その揺らぎを制御することで機能不全を予防することを目指す。由来の異なるiPS細胞5種に対する放射線被ばく影響を調査する研究は、同研究費助成事業(基盤B,21H03599)により実施された。2023年度の本研究課題においては、細胞状態の「揺らぎ」を計測するための技術基盤の開発を行った。 開発した手法は、二つである。ひとつは、従来の免疫染色法を用いた方法である。直径250ミクロンの円状に細胞が接着するように加工したガラス基板を作成し、その基盤上でiPS細胞を培養する。分化誘導を施すと、細胞は場所依存的な分化様相を提示する。分化誘導後0, 12, 24, 48時間毎に免疫染色観察を行うことで、細胞が分化する過程における揺らぎ(ヘテロジェナイティ)を定量できる。なお、定量のために細胞核を自動で認識し周辺細胞との差異を計算する機械学習モデルを構築した。 もうひとつは、単細胞ラマン散乱スペクトル計測-トランスクリプトーム同時開発技術である。我々は、本研究開始前より、細胞ひとつひとつのラマン散乱スペクトルを計測し、その細胞をピックアップしトランスクリプトーム解析するシステムを構築してきた。機械システムは、全て導入済であり、本研究課題においては、統括制御システムの構築を行った。このシステムでは、培養皿内の細胞を自動で探索・発見し、ラマン散乱スペクトルを計測後、その細胞をエッペンチューブに移し替えることが出来る。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題に必要とされる技術的な開発を全て完了できた。放射線被ばく影響による差異が「揺らぎ」により検出される確証は無いものの、本研究課題の核心である「揺らぎ」による状態遷移の予測については、細胞分化の実験系を併用することにより達成されると予想している。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度までに、技術的課題については全て解決できている。2024年度は、開発した技術を用いて実データを収集し、揺らぎの解析を行っていく。また、同時に、本研究課題開始前に収集されていた様々な生物学データについても、揺らぎの観点から解析を行い、「揺らぎ」による細胞状態予測実現の是非に一定の答えを提示する予定である。
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Causes of Carryover |
昨今の円安、物価高の影響を受けて、使用を予定していたヒトiPS細胞用の培養液の価格が研究計画時より高額となり、予定通りに予算を執行した場合の研究費不足が想定された。そこで、システム開発時の試実験等においては、ヒトiPS細胞ではなくマウス胚性幹細胞を代用し試薬代の節約を行ったため、次年度使用が生じた。また、iPS細胞培養を可能な限り一括で行うことにより、培養液等の試薬の節約が可能となるため、データを収集ための実験は次年度に集中させることとした。これにより、助成された金額内で、予定されたヒトiPS細胞を用いた実データ収集が可能となる。
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