2023 Fiscal Year Research-status Report
オクチルスズを用いる環境保全合成化学:無毒化・分離回収・再利用
Project/Area Number |
23K18544
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
吉田 拡人 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 教授 (40335708)
|
Project Period (FY) |
2023-06-30 – 2026-03-31
|
Keywords | トリオクチルスズ / スタニル化反応 / クロスカップリング反応 / 無毒化 / 回収再利用 |
Outline of Annual Research Achievements |
スズは他の元素では実現できない特有の反応性を示し,有機合成による物質創製上,極めて重要である.特にトリブチルスズ誘導体(TBT)が有機合成に多用され,有機薄膜太陽電池用ポリマーなど暮らしを豊かにする物質が製造される.その代わりのきかない機能の一方で,TBTは内分泌攪乱物質としての負の側面を持つうえ,ラットの経口急性毒性も無視できない程度には高い.以上のような背景から,“スズを用いる合成化学 = 有毒”という概念が有機化学者にも定着しており,研究分野は停滞していると言っても過言ではない.本研究では,ラットの経口急性毒性では食塩と同レベルの無毒性を示すトリオクチルスズ誘導体(TOT)に着目し,環境負荷を究極まで低減した分子創製技術を開発することを目的とした.今年度は,シリルスタナンから独自の手法で発生できることを明らかにしているスタニルカリウムを鍵反応剤とすることで,TOTユニットを芳香族骨格に直接導入するスタニル化の開発に成功した.また,こうして得られる芳香族TOTはパラジウム触媒を用いる右田ー小杉ーStilleクロスカップリングにも利用でき,従来のTBTと遜色ない反応性を示すことを明らかにした.さらに,TOTはスズ上の長鎖アルキル基(総計C24)を起源とする強いロンドン分散力により,アルカン系炭化水素との親和性が格段に増す.この性質を利用することで,ヘキサン/アセトニトリル二層系による分液・抽出操作のみで,クロスカップリング後のTOT由来生成物をヘキサン,クロスカップリング体をアセトニトリルに完全分配できることも明らかにした.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでほとんど研究例のなかったTOT誘導体の合成化学に関し,独自のスタニルカリウム発生法を活用した芳香族骨格へのTOT導入反応による芳香族TOTの簡便効率的合成を達成したこと,およびそれにより合成できた種々の芳香族TOTを用いたクロスカップリング反応が従来のTBT誘導体と遜色ない反応活性を示すことを明らかにできたことをもって,本研究課題は極めて順調に進捗していると判断した.さらに,TOTのスズ上長鎖アルキル基に由来する炭化水素系溶媒への高親和性を利用することで,クロスカップリング体とTOT由来生成物とを分液操作のみで完全に分離できることも明らかにしており,目的物へのスズの混入やスズの完全回収への道筋を示していることも順調な進捗と判断した理由である.
|
Strategy for Future Research Activity |
芳香族TOTがクロスカップリングにおいて充分な反応性を示すことを明らかにできたため,今後は他の変換反応における芳香族TOTの反応性を調査してゆく計画である.対象としては,TBTで達成されているハロゲン化・スズ-リチウム交換反応・銅触媒によるアラインのアリールスタニル化,などを想定している.さらに,TOTの細胞レベルでの毒性評価についても薬学系研究者との共同研究により推進していく計画である.
|
Causes of Carryover |
当初想定していた物品費使用額よりも少ない支出ながら,研究計画が極めて順調に進捗した状況であったため次年度使用額が生じた.当該助成金と翌年度分として請求した助成金を合わせ,一層研究を進捗・拡大させてゆくべく,適正に助成金を使用していく計画である.
|