2023 Fiscal Year Research-status Report
近代における青果の生食需要と果物の「あるべき姿」の生成に関する研究
Project/Area Number |
23K18737
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Research Institution | Chiba Keizai University |
Principal Investigator |
豊田 紘子 千葉経済大学, 経済学部, 講師 (10979438)
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Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 生食 / 青果物 / 農産物貿易 / 反グローバル / 植物防疫 / 検疫 / 着色 / 糖度 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度である2023年度は資料や参考文献の収集に重点をおき検討を進めた。具体的には,植物防疫資料館で近代における植物防疫の各国の動向と,明治後期から大正期にかけて日本で発生した果樹の害虫に対する駆除予防試験および防除法の展開に関する資料を収集した。資料の検討の結果,19世紀末から20世紀初頭にかけて欧米各国およびオセアニア地域が植物検疫に関する法令を相次いで公布し,日本では1914年に輸出入植物取締法を制定することで対応したことが明らかになった。このことから近代における生植物・生果実のグローバルな移動が病害虫伝播防止を根拠に,国家による検査によって管理・制限されたことが見出された。 また日本国内において1880年代以降にフィロキセラやイセリアカイガラムシなど果樹の害虫が問題視されるなかで,取引される苗木に対して,あるいは果樹産地における防除として,青酸ガス燻蒸による徹底的な殺虫が遂行されたことが明らかになった。 カンキツ産地を事例に防除の展開について検討すると,防除に青酸やヒ酸鉛など毒性が高い薬剤が使用されていたことが確かめられた。また,これらの薬剤の使用はカンキツ果実の着色促成や糖度上昇効果があることが生産者や農学者によって見出され, 1930年代から1960年代にかけてカンキツ樹の青酸ガス燻蒸が積極的に実施されたことが明らかになった。このことから当該時期には,虫の痕跡がなく均一に色濃く着色され,砂糖をかけずとも甘い果物であることがミカンの「あるべき姿」となりつつあったことが見出された。 また生果との比較として果物加工品の輸出について検討した。具体的には,戦間期における果物缶詰貿易について,国内の缶詰工場の調査票とイギリス国立公文書館で得られた果物缶詰の輸入統計等の資料から予察を行った。その結果としてイギリスが輸入する日本の果物缶詰はほとんどがミカンであることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は予定通り,植物防疫資料館所蔵資料による検疫や防除に関する検討と,イギリス国立公文書館における戦間期の果物缶詰貿易に関する資料収集を実施することができた。2023年度に収集した資料により,次年度の研究成果の発表にむけた準備を進めることができている。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は,カンキツ産地でみられた果実の規格化(出荷規格の設定など)や外観調整(着色促成など)の動向に関して学会で発表し,研究成果をまとめる。 また輸出入植物の検査がとくに厳格であったアメリカへの日本産ミカン輸出を事例に,輸出に適した(輸出検疫条件を満たす)ミカンがいかに生産されたかを調査する。その際に,果実そのものだけでなく梱包資材や貼付されたラベルなども商品の外観ととらえ,果物の「あるべき姿」の検討の対象にしようと考えている。
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Causes of Carryover |
2023年度はイギリスとアメリカで資料収集を実施する計画であったものの,国際航空賃および宿泊費の高騰と,また円安の影響で1調査あたりの旅費が計画よりも高くなってしまった。研究を進めるなかでより現地での資料収集の必要性が高いと判断したイギリスでの調査を実施した。アメリカの資料収集はデジタルアーカイブスを活用することにより進めることができたものの,アメリカでの現地調査分の旅費を使用しなかったため,次年度使用額が生じることとなった。 翌年度分として請求した助成金は2023年度に実施できなかったアメリカでの現地調査で使用することを計画している。
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