2023 Fiscal Year Research-status Report
震災経験のユーモアとレジリエンスにかんするコミュニケーション社会学的研究
Project/Area Number |
23K18839
|
Research Institution | Toyo Gakuen University |
Principal Investigator |
庄子 諒 東洋学園大学, 人間科学部, 講師 (00980822)
|
Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
|
Keywords | 原子力災害 / ユーモア / レジリエンス / 東日本大震災 / 福島第一原発事故 / 震災経験 / コミュニケーション / 質的調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、震災前後をとおして暮らし続けてきた福島の人びとが、自らの震災経験をいかにして解釈し、ユーモアを生成することで、他者とのコミュニケーションをどのように構築してきたのか、を明らかにすることを目的としている。 2023年度では、本研究を構成する3つの研究課題のうち、【Ⅰ】震災経験の解釈とユーモアの実践に関する実証的研究を中心に、震災後の生活のなかで、震災経験がいかに解釈され、ユーモアへと転化されているかについて、分析を進めることができた。また、その過程を取りまとめ、国際学会および国内学会での発表を行い、有益な議論やフィードバックを得ることができた。具体的には、大きく分けて2点の成果が挙げられる。 第一に、発災時点のみならず、その後も続く地域生活上の変化を、継続的な震災経験としてみる長期的な視座の重要性を明らかにした点である。このことから、生活者視点の震災経験の解釈の潜在的可能性を捉えるために、そのなかで立ち現れる単線的ではないミクロレベルでのレジリエンスの多様な生成過程に着目する意義を示した。 第二に、個々人の震災経験を解明するうえで、個人の経験的語りにアプローチする実証的研究について、バイオグラフィカル・アプローチやオーラルヒストリーといった方法論的観点を軸とした、国内外にわたる分野横断的な議論との接続可能性が見出された点である。このことから、本研究の成果をとおして、災害研究をはじめ、さまざまな問題経験にかんする質的調査論への貢献を果たしうることを示した。 加えて、上記と関連する発展的な成果として、本研究におけるさらなる方法論の精緻化を図って、フィールドワークの実践的考察を行った調査研究に取り組み、論文として発表した。ここで得られた知見を、本研究の実践へとさらに還元していく予定である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度では、これまでのフィールドワークやインタビュー調査にもとづく既存の質的データの整理・分析・考察、および近年の関連分野の動向を中心とした文献調査に予定よりも多くの時間が費やす必要が生じたため、その過程で浮上したあらたな論点にかんする追加調査をふくめた現地調査の実施が後ろ倒しとなり、現状では当初の研究実施計画よりも遅れぎみでの進行となっている。 他方で、質的データの入念な分析・考察が進められたことから、上記の研究実績に示したとおり、2024年度実施予定であった学会発表をはじめ、研究過程をふくむアウトプットへの取り組みに、当初の研究実施計画よりもかなり早い段階で展開させることができており、そこでの議論やフィードバックを取り入れて研究課題をブラッシュアップさせながら、本研究を進展することができている。加えて、方法論の精緻化に向けた発展的な成果の還元にも取り組むことができている。 したがって、本研究全体としては総合的にみておおむね順調に進展していると考えている。今後は、以下に示すとおり、後ろ倒しとなった現地調査の実施と併せて、残りの研究課題への取り組みにさらに尽力していく。
|
Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、おおむね当初の研究実施計画のとおり、【Ⅱ】震災経験をめぐる被解釈客体と解釈主体の相互作用に関する実証的研究、および【Ⅲ】震災経験のオルタナティブな解釈可能性とレジリエンスに関する理論的研究を中心に推進していきたいと考えている。 【Ⅱ】については、他者からの被解釈による客体化が、自らの震災経験の再解釈にいかに影響を与え、被災当事者の主体性を構築しているかを分析するために、福島県中通り・浜通り地方でのフィールドワーク、および被災当事者へのインタビュー調査を実施する。これらの現地調査においては、2023年度内に取り組んだ研究課題【Ⅰ】に対する追加調査にも併せて取り組んでいく予定である。 また、【Ⅲ】については、2つの実証的研究をもとにした災害とコミュニケーションに関する動態的分析の理論化を行うため、これまでの実証的研究の考察をさらに進めるとともに、文献調査を継続する。そして、本研究の総合的な成果を取りまとめ、学会での研究成果報告を実施する予定である。
|
Causes of Carryover |
上述のとおり、2023年度では、研究課題【Ⅰ】にかんして、既存の質的データの整理・分析・考察、および近年の関連分野の動向を中心とした文献調査に予定よりも多くの時間を費やすとともに、研究過程のアウトプットへと早めに展開する方向性へと移行したため、その過程で浮上したあらたな論点にかんする追加調査をふくめた現地調査の実施を後ろ倒しとした。そのため、当初予定していた予算を、2024年度に繰り越す結果となっている。 したがって、2024年度に繰り越した予算については、当初の研究実施計画に加えて、おもに現地調査にかかる費用へと使用していく予定である。また、研究課題【Ⅰ】の進展を受けて研究課題【Ⅲ】の内容がブラッシュアップされており、その展開可能性を十分に検証していくために、文献調査にかかる費用にもさらに投入していく予定である。
|