2023 Fiscal Year Research-status Report
超高感度分析装置で迫る氷星間塵における有機窒素化合物形成素過程
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23K19058
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
石橋 篤季 北海道大学, 低温科学研究所, 博士研究員 (80983949)
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Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 表面反応 / 星間塵 / 分子進化 / 星間分子雲 / 複雑有機物 / ラジカル検出 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、低温H2O氷に吸着した微量CH3OHとNH3試料の光反応実験を行う予定だった。しかし、H2O、CH3OH、NH3の3成分系での光反応生成物は非常に複雑となり、結果の解釈が難しいことが予測される。そのため、まず初めに、氷上のCH3OHとNH3の光反応で生じる可能性が高い単純な反応系において、詳細な調査を行った。光照射初期過程では、まずH2O氷の光解離でOHラジカルが形成され、反応を生じる可能性が高い。それゆえ、高感度非破壊質量分析(Cs+ピックアップ)装置を用いて、氷表面におけるOHが起点となる反応を調べた。 先行研究から、氷上のCH3OHの光反応で最初の段階に主要に生じることがわかっているCH3OHとOHの反応について詳細な物理化学過程を調べた。その結果、CH3OとCH2OHラジカルの分岐比を定量的に決定することに成功した。CH3OとCH2OHの分岐比はおよそ4:1であり、CH3Oが優勢に生成する。また、CH3Oラジカルの低温での駆動性についても示唆的な結果を得ることができた。CH3OラジカルはCH3OH+OHの反応後、過渡的に拡散できることがわかった。一方で、CH2OHラジカルはほとんど駆動しないことを示唆する結果をも得た。つまり、CH3Oラジカルがより反応に寄与する可能性が高いという予察的な結果を得ることができた。 また、氷上のNH3について、予備的な光反応実験を行った。その結果、NH2ラジカルやN2H4、NH2OHなどが検出できた。これらの生成物は全てNH2が材料となり生成する分子である。そのため、氷上のNH3の光分解では、NH3の光分解またはNH3+OHにより、NH2ラジカルが主要に形成するということが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、まず、素過程の理解を優先的に行った。その結果、氷表面におけるCH3OHとOHラジカルの反応分岐比について、これまでにない精度で求めることに成功した。そして、形成したCH3Oが反応熱などを使って、10Kであっても過渡的に拡散する様子を捉えることに成功した。この情報はこれまであまり考慮されていないことであり、実験的に捉えることができたのは本研究が初めてである。また、氷上のNH3から生成したNH2とNH2由来の生成物の検出にも成功した。 これらの知見は、反応経路を決定する上で非常に重要な情報であるため、おおむね順調に進んでいると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、低温H2O氷に吸着した微量CH3OHとNH3試料の光反応実験を実行する。光照射中の生成物の振る舞い、および照射後の生成物の種類の分析をCs+ピックアップ装置を用いて行う。また、今年度の成果から、氷上のCH3OHまたはNH3光反応では、それぞれCH3OまたはNH2が主に生じることがわかっている。この情報と、生成物の振る舞い、生成物の種類を基に、反応経路の分析を行う予定である。
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Causes of Carryover |
実験の進める行程が変更になったため、今年度に必要なくなった物品が発生した。この物品に関しては、次年度に購入する予定である。
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