2023 Fiscal Year Research-status Report
Maximum Precipitation estimation using a numerical weather model for Senjo-kousuitai events in the Tohoku region, Japan
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23K19131
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
平賀 優介 東北大学, 工学研究科, 助教 (20983745)
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Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 想定最大規模降雨 / 線状降水帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,近年東北地方において生じた豪雨を対象として,流入する水蒸気量や流向を様々に変化させた数値実験を実施し,対象の線状降水帯がもたらし得る最大規模の降雨を推定することを目的とする.初年度は,領域気象モデルWeather Research and Forecasting (WRF)を用いた対象イベントの再現計算を実施した.対象イベントとして,2022年8月に東北・北陸地方において生じた線状降水帯による豪雨とし,初期・境界条件としてGDAS-FNLを用い,複数の物理スキームを用いた再現計算を実施した.その結果,最上川流域と(越後)荒川流域の48時間降水量の時空間分布を精度良く再現する物理スキームの組み合わせが選択された.これにより,初年度の目標である「WRFによる線状降水帯の再現計算」を達成した.また,翌年度の目標であった「水蒸気場を変化させた数値実験」についても取り掛かり,初期境界条件において相対湿度を異なるパターンで変化させた数値実験を実施した.対象イベントの降水量は相対湿度の変化に非常に敏感に反応することが分かり,相対湿度100%とした場合において必ずしも降水量が増加しないことが示された.今後は計算結果を基に主に以下を実施する.(1)水蒸気場の変化パターンを増やし,水蒸気場と降水量の関係を定量的に明らかにする.(2)対象イベントを増やし,より普遍的な応答の解明につなげる.(3)推定された想定最大規模降雨と既存の設定値の比較を実施する.物理的に想定最大規模降雨を推定する研究は国際的に注目を集めているものの,メソ対流系を対象とした事例は限られる.そのため,研究終了時点までに本研究による成果をまとめ,国際誌での成果の公表を通じて,既存の手法の問題点・有効な手法の提案を狙う.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
初年度は,先ず領域気象モデルWeather Research and Forecasting (WRF)を用いた対象イベントの再現計算を実施した.対象とする豪雨イベントとして,2022年8月に東北・北陸地方において生じた線状降水帯による豪雨を選択した.当該イベントは,山形県椿雨量観測所において24時間雨量474mm,深沢雨量観測所において24時間雨量409mmなど,複数地点において観測史上1位の値を更新し,最上川上流・中流の複数地点において越水・溢水をもたらした.WRFモデルの計算領域として,線状降水帯を解像すること,アンサンブル計算の必要があることを考慮し,2-wayネスティングにより子ドメインが1.2kmの空間解像度となる領域設定を採用した.本計算領域を基に,初期・境界条件としてGDAS-FNLを用い,複数の物理スキームを用いた再現計算を実施した.物理スキームとして17種の雲微物理スキーム,8種の境界層スキームを考慮し,流域スケールの降水量を最も精度良く再現するスキームの組み合わせを探索した.その結果,最上川流域と(越後)荒川流域の48時間降水量の時空間分布を精度良く再現する物理スキームの組み合わせが選択された.これにより,初年度の目標である「WRFによる線状降水帯の再現計算」を達成した. また,翌年度の目標であった「水蒸気場を変化させた数値実験」についても取り掛かり,初期境界条件において相対湿度を異なるパターンで変化させた数値実験を実施した.想定最大規模降雨の計算で良く用いられる,初期境界条件の相対湿度を100%とした場合と操作倍率を設定した場合で対象イベントの数値計算を実施した.その結果,対象イベントの降水量は相対湿度の変化に非常に敏感に反応することが分かり,相対湿度100%とした場合において必ずしも降水量が増加しないことが示された.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度は当初の計画以上に進展し,水蒸気場を変化させた数値実験について初期解析を実施できたため,今後は計算結果を基に主に以下を実施する.(1)水蒸気場の変化パターンを増やし,水蒸気場と降水量の関係を定量的に明らかにする.(2)対象イベントを増やし,より普遍的な応答の解明につなげる.(3)推定された想定最大規模降雨と既存の設定値の比較を実施する.(1)は,水蒸気の量に加えてフラックスの流向について感度分析を実施しており,現在進行中である.物理的に想定最大規模降雨を推定する研究は国際的に注目を集めているものの,メソ対流系を対象とした事例は限られる.そのため,研究終了時点までに本研究による成果をまとめ,国際誌での成果の公表を通じて,既存の手法の問題点・有効な手法の提案を狙う.
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Causes of Carryover |
高解像度での気象計算のために設備備品費(高性能ワークステーション)として1200千円を計上しており,ワークステーションのみでの計算を計画していたものの,計算の一部を東北大学サイバーサイエンスセンターが保有するAOBA-Sスーパーコンピューターで実施した.これは,スーパーコンピューター上でのWRFモデル整備が想定以上に進んだためである.そのため,ワークステーションの購入ではなく,スーパーコンピューターの使用料とHDDの購入などで,所定の計算を完了した.次年度使用額について,主に得られた成果の発表(IAHR Euro Congress: 600千円)と,現地調査(赤川流域: 100千円)に使用する計画である.
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