2023 Fiscal Year Research-status Report
Evaluation of the effects of hot and humid environments on cognitive function based on physiological mechanisms
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23K19162
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Research Institution | Nara Women's University |
Principal Investigator |
伊藤 佳乃子 奈良女子大学, 工学部, 寄附講座助教 (00982886)
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Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 温熱環境 / 認知機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、認知処理に関連して発生する脳電位の変化(脳波事象関連電位)を用い、(1)執務空間における気温および湿度が認知機能、ひいては生産性に及ぼす経時的影響を客観的に評価すること、(2)上記の環境要素が認知機能に影響を及ぼす生理・心理的メカニズムを体温や呼吸・循環動態との関連から説明することであった。上記の目的を達成するための準備段階として、本年度は以下のような予備実験を実施した。 健康な若年女性4名を暑熱条件(33℃相対湿度60%)と中立条件(23℃相対湿度60%)の2条件の温湿度条件にそれぞれ3時間曝露し、模擬作業(加算・減算課題)および認知課題、各種生理・心理測定の結果を比較した。この結果、生理・心理測定のうち、全身7点で測定した皮膚温と外耳道で測定した深部温について、暑熱条件での有意な上昇が確認できた。これに伴い、温冷感と熱的快適感の申告は中立条件ではほぼ中立、暑熱条件では暑いかつ不快であった。脳血流は暑熱負荷で増加したが、時間が経過するにつれ徐々に減少する傾向がみられた。血圧や心拍数に関しては、条件間でほとんど差がなかった。脳波事象関連電位、呼吸パターン、および模擬作業成績の解析については現在進行中である。 以上より、体温や温冷感の観点から、暑熱条件と中立条件で期待した熱負荷が得られていることを確認できた。また、脳血流が血圧や心拍数の変化なしに条件間で、さらに経時的に変化することが確認され、室内で想定される範囲の温湿度であっても認知機能に影響を与えることが示唆された。さらに、暑熱環境への曝露時間によって認知機能への影響が異なる可能性があることを示した。2024年度は同様のプロトコルで本実験を実施し、より多くの被験者を対象に、認知機能に対する温湿度の影響の定量的評価およびその生理的メカニズムの説明を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書に記載した研究実施計画において、2023年度は、予備実験を実施し、本実験の実験プロトコルを確立することを目標としていた。上述のとおり、本目標は十分に達成できたといえる。また、実験に必要な心電図や血圧、脳血流などの生理測定技術についても、2023年度に修得している。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は5月末までに予備実験の解析を終え、6月から10月にかけて本実験を実施する。若年男女を対象とし、被験者数は少なくとも26名を目標とする。また、同時進行で分析を進める。まず脳波事象関連電位および課題・作業成績の観点から、環境条件ごとの認知機能の差を比較・検討する。さらに多変量解析により、上記の変数と、体温や呼吸・循環動態といった生理・心理変数との因果関係の推定を行う。多変量解析の手法として、複数被験者に対し複数回測定されたデータに対し個人差の影響を含む正しい推定が可能であるマルチレベル構造方程式モデリングを適用する。 成果は少なくとも2つの学会で発表し、国際論文誌に投稿する。現在、人間-生活環境系シンポジウム(12月)と日本生理学会大会(3月)の2学会で発表を予定しており、建築分野から生理学分野までの幅広い研究者との意見交換が可能である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、当初購入予定であった物品の一部を学内で借りることができたためである。 当該助成金は、被験者を増員した分の謝金として使用予定である。
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