2023 Fiscal Year Research-status Report
配位子間相互作用を利用した金属クラスターの精密な集積状態制御とその機能開拓
Project/Area Number |
23K19233
|
Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
陶山 めぐみ 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (40981957)
|
Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
|
Keywords | 配位子保護金属クラスター / 集積化 / 配位子間相互作用 / クライオ電子顕微鏡観察 |
Outline of Annual Research Achievements |
配位子保護金属クラスターは数百個以下の金属原子の集合体の表面を有機配位子で保護した化合物であり、バルク金属やナノ粒子とは異なる電子・幾何構造に由来した特異な物性を示す。これらの物性は、構成原子数(サイズ)・合金組成・形状・配位子による化学修飾などの構造因子により制御可能であり、故に、配位子保護金属クラスターは、多彩な物性を発現する機能性材料の構成単位として注目されている。 機能性材料として金属クラスターを用いる場合、その集積化状態・結晶状態を制御することは重要であるが、未だ系統的な研究はなされていない。本研究では、金属クラスターの集積化・結晶化に対して、配位子の相互作用を利用した系統的な制御を試み、それらの知見に立脚した新たな機能開拓を目指している。 集積化に向けた金属クラスター間の配位子間相互作用の制御に向け、まず配位子の直鎖アルキルの長さを変えた金属クラスターをそれぞれ作製し、アルキル鎖間のファンデルワールス相互作用を用いた集積化効果を検証した。赤外分光法や粉末X線回折などを通じ、鎖長が長いほどその集積化状態は強固なものであることが確認された。さらに、集積する際、配位子の動的挙動がその集積化状態に大きく影響することを見出した。これは、粒径2 nm以上のナノ粒子では見られない挙動であり、クラスターの有する1 nm 以下の小さな金属コアに起因するものであると考えられる。 また、本研究では、作製した集積体の構造決定に対してクライオ電子顕微鏡を用いることを検討している。しかし、これまで、金属原子数が100 個以下の配位子保護金属クラスターを測定した例は無く、適用可能かどうかを検証する必要があった。そこで、既報の2つの配位子保護金クラスター (Au25(SC2H4Ph)18, Au25(SC2H4COOH)18に対して、microED 法を用いたクライオ電顕による構造決定を試みた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アルキル鎖間のファンデルワールス相互作用を用いた集積化効果を検証した結果、鎖長が長いほどその集積化状態は強固なものであることを確認した。さらに、集積する際、配位子の動的挙動がその集積化状態に大きく影響することを見出した。これは、粒径2 nm以上のナノ粒子では見られない挙動であり、クラスターの有する1 nm 以下の小さな金属コアに起因するものであると考えられる。したがって、クラスターサイズの小さな粒子においては、配位子層の挙動の理解がその粒子間の配列制御を理解するために重要であると言える。上記の基礎的知見は、クラスターの集積化に向けた設計指針を提供するものであろう。また、作製した集積体の構造決定に対してのクライオ電子顕微鏡の適用可能性を検証するため、既報の2つの配位子保護金クラスター(Au25(SC2H4Ph)18 (構造報告済), Au25(SC2H4COOH)18 (構造未報告))に対して、microED 法を用いたクライオ電顕による構造決定を試みた。その結果、両者共に高分解能の回折パターンの取得に成功した。一方で、上記の測定を通じて、グリット作製条件の最適化など、詳細な構造解析に向けた課題点も新たに浮かび上がってきた。それらの克服・改善によってより詳細な構造解析が達成されるものと考えている。さらに、クライオ電子顕微鏡観察では、トルエン中におけるクラスターの分散状態の観察を行ったところ、クラスターは単一に分散しておらず、複数個のクラスターがまとまっている様子が見られた。この結果は、溶液中において配位子間相互作用によって、クラスターが局所的に集積していることを示しており、集積化が起こる際の初期段階にあたると推察される。上記の知見は、今後の集積化メカニズムの解明の糸口となる情報であると考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
アルキル鎖間のファンデルワールス相互作用により、クラスターの集積化状態を制御可能であるという知見は、集積化における配位子間相互作用の重要性を明らかにしたものである。さらに、その挙動がナノ粒子とは異なる点においては、クラスター集積体が、ナノ粒子を構成単位とした集積体とは異なる特性を発現する可能性を秘めていることを示唆している。引き続き、他の相互作用の影響を調査しつつ、物性評価を続ける。具体的には、C-H…π相互作用やpHを調整した上での静電相互作用を取り扱う予定である。また、配位子の状態については、赤外分光法やクライオ電子顕微鏡に加え、放射光施設にて軟X線領域での測定を試みる。 加えて、配位子保護金属クラスターの構造解析に対してクライオ電子顕微鏡のmicroED 法が有用な手段となりうることが実証されつつある。これにより、従来のX線を用いた構造解析では解けなかった結晶に対しても構造情報へのアクセスが可能となる見込みが出てきた。今後は、本研究で作製するクラスター集積体の構造情報の取得に使用するのみならず、これまで未解明であったクラスターの構造-物性相関の解明にも挑戦する。
|
Causes of Carryover |
購入を計画していた一部の物品の納期が2024年度にずれ込んだため。加えて、研究成果の発表を予定していた国際学会を2023年度のものから2024年度開催のものに変更したため。 なお、2024年度は本研究課題の予算にて計2回の国際学会、1回の国内学会での成果発表を予定している。(当初の予定では、2024年度は国際学会1回、国内学会1回の旅費を支出する予定であった)
|