2023 Fiscal Year Research-status Report
Theoretical study of ion transport in ZIP8 protein based on statistical mechanics theory of liquids
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23K19236
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
藤木 涼 筑波大学, 生存ダイナミクス研究センター, 助教 (30977541)
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Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 液体の統計力学理論 / 3D-RISM理論 / 分子動力学シミュレーション / Zrt-Irt like Protein / イオン輸送 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では人の体で亜鉛の輸送を行うタンパク質human-ZIP8に注目し、その仕組みについて計算機を用いた理論的な研究を行っている。ZIPファミリーの多くは主に人体での亜鉛のみの運搬に関わっているが、その中のZIP8というタンパク質は亜鉛だけでなくカドミウムやマンガンの運搬も行うことが知られている。しかし、その運搬の仕組みについては実験によって今も明らかにされていない。本研究は計算機を用いたシミュレーションと、金属イオンがどのように存在するかを表現するための液体の統計力学理論を用いることでミクロな視点から調査を行い、その仕組みを明らかにすることを目的としている。 2023年度はイオン輸送に重要な結合サイトの特定に取り組み、シミュレーションを実行することで知見を得ることができた。当初の予定では変異体とWild Typeの比較を次年度に行うことを想定していたが、イオン結合サイトの有効性を量るため先に変異部位を決定することとし、同様にシミュレーションを行った。これらによって得られた結果をもとに3D-RISM計算を実行したところ、どのような変異を加えたとしても特定の結合サイトが変異の影響を非常に受けにくく安定的であることがわかり、また周囲のアミノ酸残基が変異に対応した特異的な構造変化を行うことが示唆された。特に先行研究で示唆されていたイオン認識部位Q58とE221についてはヒスチジンへの変異によって残基間の相互作用が減少し、細胞内への出口となる部位の距離が増加したことから亜鉛への特徴的な選択性における重要な知見を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の開始段階としては現在用いている立体構造についてイオン輸送に重要な残基を特定するためのシミュレーションを実行する必要があり、今後の計画を円滑に進めるためにその有効性を明らかにしておく必要があったため次年度に実行予定だったシミュレーションを前倒しして行う必要があった。それに加えて用いている立体構造は実験に基づくものではないことから得られた計算結果の解析を想定よりも厳密に考察する必要があった。その結果、本年度当初に比べ3倍以上のシミュレーションを実行することが必要となったものの、変異体の構造データはおおよそ取得でき、イオン輸送過程において安定的に機能する結合サイトを変異体構造と比較しながら予測できた。次年度はこの結合サイトに対するイオンの結合安定性について各構造に対して分子動力学シミュレーションを実行し、評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
Wild Typeと複数の変異体のシミュレーションならびにそれぞれの構造に対する3D-RISM計算を完了したのち、イオンの分布から予測される金属イオン結合サイトに露わなイオンを配置したシミュレーションを実行する。これによって、変異体間で同様の結合サイトに対する違いを調査する。また、これまでの研究によって結合サイトの安定性と変異による構造の大規模な変化が観測されたことを踏まえ、相互作用解析と主成分分析を行い比較し、結合サイトに直接相互作用を持たないと考えられるS213やI218がどのような役割を果たすかについても明らかにする。 なお、3D-RISM理論に基づいて得られる溶媒分布から結合部位に対する配位構造を得るアルゴリズムについては既に他の先行研究によって確立されていたため、そちらを結合部位予測のために活用しつつ、より簡潔かつ高精度に予測可能なプログラムが開発可能かどうか検討する。
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Causes of Carryover |
想定よりも解析に必要な時間が長く、成果をまとめるのが遅れたため学会の参加回数が減少し、当初よりも旅費を使用しなかった。また研究期間中に所属の異動があったためまとまった時間が取れず、打ち合わせのための出張回数も減少した。学外の研究機関のスパコンの利用も想定していたが、ワークステーションの導入が完了して研究を進めるうち、生産性の向上のため次年度に購入する予定だった解析用のラップトップPCの本年度に前倒しした。 生じた差分は次年度での論文投稿、ならびに本年度に実現できなかった研究打ち合わせや学会発表のための旅費に使用する予定である。次年度のそのほかの用途については当初の予定とおおむね変わりないが、計算効率向上のために計算用ワークステーションを1台追加し、状況に応じて学際共同利用のスーパーコンピュータについても申請予定である。
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