2023 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23K19274
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
矢口 寛 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 基礎科学特別研究員 (10981194)
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Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | ヒドリドイオン導電体 / ヒドリド含有化合物 / 物質変換 |
Outline of Annual Research Achievements |
今後の社会の持続的な発展のために、燃料電池等の電気化学デバイスの開発が求められている。燃料電池には作動温度が高温(700 ℃)であるといった問題を抱えており、工業廃熱を利用できる中温域(200-400 ℃)での作動が望まれている。ヒドリドの持つ高い還元力から既存の燃料電池に応用されている導電体と比較してヒドリドイオン導電体は電極での反応が有利である。そのためヒドリドイオン導電体を用いることで中温域での作動が可能となる。しかしながら、現状のヒドリドイオン導電体は中温域において高い導電率と高い安定性を両立した材料は存在せず、燃料電池等への応用可能なヒドリドイオン導電体の発見が求められている。 本年度は既知物質であるBa1.75LiH2.7O0.9に異種元素置換を検討し、0.1 S/cmを超える極めて高い導電率を発現する物質を発見した。さらにこの物質はBa1.75LiH2.7O0.9などの既存の材料よりも広い範囲で熱的・電気的・化学的安定性を兼ね備えた材料であった。この物質を用いてデバイス応用の研究も行っており、水素濃淡電池の作成にも成功している。高いヒドリドイオン導電率を発現する要因を解明するために、高温放射光・中性子回折測定を実施してた。得られた回折データを用いて精密化した結晶構造からこの要因の一つは相転移によるものであるとわかった。 また新規ヒドリド化合物の開発も検討しており、アルカリ土類金属などを含む酸ヒドリド化合物も発見しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
既知物質であるBa1.75LiH2.7O0.9の異種元素置換により中温域で目標の数値を超える極めて高い導電率と高い熱的・電気的・化学的安定性を発現する物質を発見した。本物質の開発はデバイス応用を目的としていたため、実際に発見した物質をデバイスに組み込み水素濃淡電池の作製にも成功している。このため当初の想定以上に研究は進んでいるが、一方でデバイス実験を行ったことにより、申請時の目標数値よりも高い導電率をより低い温度で実現しつつ安定性もより高いヒドリドイオン導電体がデバイス応用する上では必要であることが分かった。 Ba1.75LiH2.7O0.9の異種元素置換により発見した物質に関しては、高温放射光・中性子回折測定や示差走査型熱量測定から高いヒドリドイオン導電率を発現する要因は相転移によるものだと解明できた。したがってBa1.75LiH2.7O0.9系材料においては、より低温で相転移するような物質を開発するべきであるという指針も確立できた。
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Strategy for Future Research Activity |
デバイス開発を行ったことで、高い導電率をより低い温度で実現しつつ安定性もより高いヒドリドイオン導電体が必要であることが分かった。そのため今後の研究としてはデバイス応用を見据えた材料の開発を行う。本年度の研究で、発見したヒドリドイオン導電体をデバイスに組み込む手法は確立できたため、導電率や安定性の評価に加えてデバイス応用した際の振る舞いについても研究を行う。 新しいヒドリドイオン導電体の開発としては、Ba1.75LiH2.7O0.9の異種元素置換と新規ヒドリド導電体の探索を並行して行う。Ba1.75LiH2.7O0.9の異種元素置換については本年度の回折実験から得られた知見をもとに、元素置換を行う予定である。一方で既知物質の元素置換では目標に届かない可能性があるため、新規ヒドリドイオン導電体の開発も必要不可欠である。新規ヒドリドイオン導電体についてはすでに発見しつつある物質がヒドリドイオン導電性を有するのか評価する。ヒドリドイオン導電体だった場合はその物質を用いてデバイス応用などの実験を行い、ヒドリド導電体でない場合は再度探索を行う予定である。
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Causes of Carryover |
<当該助成金が生じた状況> 合成実験および物性評価を行うため、新規電気炉と物性評価装置(ポテンションスタット)を購入する予定であった。当初の予定よりも円安の影響もあり、物性評価装置(ポテンションスタット)の値段が上がってしまい、本年度の予算内に収めることが出来なかった。そのため該当助成金が発生してしまった。 <年度分として請求した助成金と合わせた使用計画> 本年度は昨年度の予算と合わせて、5月中旬頃に物性評価装置(ポテンションスタット)を購入する予定である。当初の予定では本年度初めに高純度のサンプルを作成する目的で高純度試薬および高純度ガスの購入を検討していた。昨年度の実験で高純度のサンプルを合成するためには、高純度試薬は必要不可欠であるが高純度ガスはグレードを落としてもサンプルに大きな影響がないことが分かった。そのため、高純度ガスの購入を見送り、その分の費用を物性評価装置(ポテンションスタット)の購入に充てる。その他の物品に関しては当初の予定通り、5月中旬頃に合成のための焼成管と精密な結晶構造解析と理論計算を行うための計算機を購入予定である。また旅費に関しても当初の計画と同様に外部での回折実験を本年度は4-6回ほど予定している。
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