2023 Fiscal Year Research-status Report
蚊の脳の周波数特性の雌雄差に対するモーター分子の役割
Project/Area Number |
23K19365
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
大橋 拓朗 名古屋大学, 理学研究科, 研究員 (80983535)
|
Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
|
Keywords | 蚊 / 聴覚 / 性的二型 / カルシウムイメージング / 繊毛 / トランスクリプトーム / プロテオーム |
Outline of Annual Research Achievements |
蚊のオスは多数のオスとともに構成した群れの中で、メスの翅音を聞きつけて配偶行動する。このオス特異的な鋭敏な聴覚の背景にはどのような聴覚情報処理の雌雄差があるのだろうか? 本年度は、雌雄のネッタイシマカの一次聴覚中枢の応答特性をカルシウムイメージングによって詳細に解析した。その結果、一次聴覚中枢の全体的な応答特性の雌雄差を明らかにした。 一次聴覚中枢内に異なる応答特性を持つニューロン集団があるか調べるため、応答特性の空間配置を階層クラスタリングによって解析した。これにより、異なる応答特性を持つニューロン集団を発見し、雌雄で応答特性の空間配置も異なることも明らかにした。興味深いことに、一部のオスが非常に特異な応答特性を持っていた。その背景メカニズムは触角の振動特性によって説明できる可能性があることをシミュレーションによって発見した。 この一次聴覚中枢の応答特性の雌雄差の背景にある分子基盤はどのようなものなのだろうか?一次聴覚中枢に投射する聴感覚ニューロンには、蚊の「耳」である触角の振動を制御する運動繊毛がある。運動繊毛を構成するモーター分子の発現量の雌雄差が一次聴覚中枢の応答特性の雌雄差に寄与している可能性がある。そこで、蚊の触角の遺伝子発現プロファイルを雌雄で比較するため、雌雄の触角のトランスクリプトーム、プロテオーム解析を行った。双方のGO解析によってモーター分子がオスで有意に多く発現しており、それらを転写制御している可能性のある候補遺伝子も特定した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は(1)ネッタイシマカの一次聴覚中枢における周波数地図が雌雄でどのように異なるかを解明し、(2)その違いに対するモーター分子の機能は何かに迫ることである。当初の計画通り、雌雄の一次聴覚中枢の周波数特性の空間配置を解析する技術を確立し、詳細な解析を行うことができた。これにより、当初の目的の(1)は達成された。 また、トランスクリプトームとプロテオームの複数のレベルにおける発現プロファイルを解析し、オスでより発現しているモーター分子やその転写因子候補を特定した。現在、この候補遺伝子のノックダウン系統を作成しており、オス特異的に発現するモーター分子の聴覚に対する機能を調べる準備をしている。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度に特定した候補遺伝子をノックダウンする系統を作成し、カルシウムイメージングによってオスの一次聴覚中枢の応答特性が変化するかを観察する。さらに、メスの翅音に対するノックダウンオスの音走性行動を観察し、聴覚行動に与える影響についても検討する。また、雌雄の蚊とノックダウンオスの繊毛構造を観察し、モーター分子の局在がどのように異なるか解析する。 これにより、蚊の聴覚機能の雌雄差に対する繊毛のモーター分子の役割を理解する。
|
Causes of Carryover |
これまでは、所属研究室の持つ蚊の飼育に関する消耗品、実験設備を利用した研究を重点的に行なってきたため、支出が極力押さえられてきた。 次年度は、遺伝子改変系統の作成、電子顕微鏡実験といった、所属研究室では経験のない実験を多数行うため、それらに重点的に助成金を使用する。また、本年度は本研究に関する研究成果が少なかったため、国際学会への発表が限定的であった。しかし、次年度は本研究で得られた研究成果について国際学会での発表、論文誌への投稿を行うため、投稿料などに使用する予定である。すでに、5月には米国における国際学会での発表が決定している。以上が、今年度と次年度を合わせた助成金を使用する計画である。
|