2023 Fiscal Year Research-status Report
変わりゆく秋季北極海の基礎生産 ~秋季ブルームの「タネ」はどこから来るのか?
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23K20031
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
深井 悠里 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 地球環境部門(北極環境変動総合研究センター), ポストドクトラル研究員 (40984331)
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Project Period (FY) |
2023-08-31 – 2025-03-31
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Keywords | 北極海 / 秋季ブルーム / 堆積物 |
Outline of Annual Research Achievements |
北極海では、近年の環境変化により、海氷が無い開放水面期間が長期化することで、秋季にも微細藻類の大増殖(ブルーム)が発生するようになった。秋季ブルームは、海氷が無い開放水面域で強風イベントが起こることによって、栄養塩が海洋表層へ供給されることが発生のトリガーとなると考えられているが、「タネ」となる微細藻類がどこから来るのかは不明である。本研究では、秋季ブルームの「タネ」の起源の違い(海水起源と堆積物起源の微細藻類)に起因する、ブルーム形成メカニズムの違いが、北極海の基礎生産や海洋物質循環へ与える影響を解明することを目的とする。 本年度は、微細藻類の「タネ」の起源に依る、形成される秋季ブルームの特性の違いを実験的に明らかにするため、JAMSTEC海洋地球研究船「みらい」での北極航海へ参加し、秋季ブルームの発生メカニズムを検証する現場模擬実験を行った。その結果、堆積物中微細藻類の加入によって、秋季ブルームの初期群集における大型植物プランクトンのバイオマスを増大させる可能性があることが示された。加えて、過去の「みらい」北極航海の物理・化学・生物データを総合的に解析したところ、チュクチ海陸棚の海底堆積物中微細藻類は、強風イベントに伴う鉛直混合によって海洋表層付近まで運ばれる可能性があることが明らかになった。すなわち、北極海の陸棚域においては、堆積物中の微細藻類が秋季ブルームの顕著な初期群集となることを示唆した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画で予定していた通り、JAMSTEC海洋地球研究船「みらい」で行われた北極航海へ参加し、秋季ブルームの発生メカニズムを検証する現場模擬実験を行った。 加えて、これまでの「みらい」北極航海の物理・化学・生物データを総合的に解析し、チュクチ海陸棚の海底堆積物中微細藻類が海洋表層付近まで運ばれ、基礎生産を再開するプロセスを一部明らかにした。この研究成果を国際学術雑誌へ投稿した。 これらの進捗状況より、本研究は、ほぼ計画通りに遂行されており、おおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究により、太平洋側北極海の陸棚域では、強風イベントによって堆積物中の微細藻類が水柱へと放出されることが明らかとなった。また、「みらい」北極航海での現場模擬実験より、水柱へ放出された堆積物中の微細藻類は、秋季ブルームの初期群集として機能する可能性が示された。次年度は、この点について、詳しい解析を行う予定である。具体的には、現場模擬実験で得たサンプルをもとに、微細藻類群集の分類群組成や、優先分類群と予想される珪藻類の種組成を明らかにするとともに、そのほかの基礎生産パラメータの時系列変化について解析を進める。これにより、ブルーム発生メカニズムにおいて堆積物中微細藻類が果たす役割の全容解明を目指す。また、得られた成果を国際学術誌へ投稿することを目標とする。
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Causes of Carryover |
現場模擬実験用として、低温恒温水循環装置を計上していたが、当初の計画を変更して、当該機器を使用せずに実験を行ったため次年度使用額が生じた。次年度は、当初予定より費用が必要になりそうな論文掲載料や国際学会旅費に予算を追加分配する予定である。
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