2022 Fiscal Year Annual Research Report
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20H01195
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
合田 正人 明治大学, 文学部, 専任教授 (60170445)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
石原 悠子 立命館大学, グローバル教養学部, 准教授 (40846995)
志野 好伸 明治大学, 文学部, 専任教授 (50345237)
竹花 洋佑 福岡大学, 人文学部, 准教授 (60549533)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 東アジア哲学 / 三つの一神教 / イスラーム / グラマトロジー / 現象学 / 儒教 / 自然科学 / 新東亜秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の活動はまず、フランス現代哲学にとって不可欠な役割を果たしてきたスリジー=ラ=サルでの「レヴィナスとメルロ=ポンティ」をめぐる一週間の国際シンポジウム(7月)に、本研究の代表者である合田が参加することから始まった。テーマは西洋の哲学者であるとはいえ、様々な国籍の参加者たちのあいだで、日本の哲学、また日本の哲学研究とレヴィナスあるいはメルロ=ポンティとの連関をめぐって、連日きわめて活発な議論が展開された。東アジア、特に中国、台湾における近年のレヴィナス・ブームについても、それをもたらした状況について様々な意見が飛び交い、きわめて有益であった。 本研究の今後の展開にとって、どうしても押さえておかねばならないのが、東アジアにおける様々な宗教の伝播と混交がそれぞれの地域での思想・哲学にどのような影響を与えたかである。ヒンズー教、仏教、儒教、キリスト教はもとより、イスラームの浸透についても注意しなければならない。文化のダイナミックな変動をどのように描き出すか、この視点と方法を求めて、イベリア半島におけるイスラームの派遣、それを覆したキリスト教勢力、さらには、レコンキスタの完成とともに追放されたユダヤ教徒たち、これらがどのように交錯し、共存したかを、コルドバとトレドにおいて実際に見聞した。これまで、本研究に欠如していたイスラーム研究に道を開くという意味でも、きわめて有効な視察であった。 新型コロナ・ウィルスへの公的対応の変化をまって、3月23日に、本研究メンバーによるシンポジウムを明治大学駿河台キャンパスで開催した。テーマは「科学と神秘」で、夏目漱石、田辺元、寺田寅彦、井筒俊彦、をめぐる四本の発表が行われ、学部学生をも含むフロアの方々との豊かな討議が展開された。このシンポジウムの成果は何よりも、東アジア哲学をめぐる共同研究のなかに、自然科学の問題を導入したことにあると言ってよい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
東アジア哲学国際学会を立ち上げ、その最一回学術大会を開催したのち、思いがけない感染症拡大のため、パリ第七・ディドロ大学での開催を予定していた第二回大会の中止など、予期せぬ障害につきあたったとはいえ、フランスの研究者たちとの交流をようやく再開し、フランスにおいて『日本哲学事典』(Dictionnaire de la philosophie japonaise)をフランス大学出版(PUF)から出版する企画が具体化したのは極めて大きな収穫であった。これはフランスでも初めての企画である。また、レヴィナスやメルロ=ポンティを研究する海外の研究者と、東アジアの哲学的状況について討論することができたのも極めて有益であった。第三に、特に日本哲学の黎明期を担った人物たちについて、その自然科学的教養と、その哲学への応用を主題化する道を、今年度は開くことができた。例えば田辺元はその最初の単著『最近の自然科学に就いて』を書くにあたって、物理学者、寺田寅彦のことを意識していたと云われている。寺田の広範な研究を本研究の視野に収めることができたのも大きな収穫であったが、それによって、科学と哲学、哲学と文学、科学と文学、といった複数の研究の方途が見えてきたと言ってよい。更に、今年度の大きな収穫は、イスラーム研究者を招聘し、イスラーム神秘主義をめぐる発表をしていただくなかで、井筒俊彦と大川周明の問題が浮上してきたことである。「東アジア」がかつて「東亜」と呼ばれていたものと当然重なり合うものである限り、本研究は、第二次世界大戦以前の、「アジア主義」の問題と向き合わざるをえない。この点については、十全な配慮が本研究においてなされてきたとはとても言えない。竹内好が大川周明を評価したことを初めとして、研究の視野を拡大し、東アジアにおけるイスラーム、という問題と正面から取り組むことが強く要請されている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究をどのように推進するか、であるが、何よりもまず、感染症拡大によって中断されていた東アジア哲学国際学会(ISEAP)の学術大会を国外の大学を開催校として実現することである。運営委員会での議論を経て、2023年度は、エディンバラ大学「哲学・心理学・言語諸科学」学部での開催が決定した。総テーマは、日本文学・哲学独自の表現形式である「随筆」である。基調講演者としては、アイスランドと韓国の二名の教授を予定している。すでに、Call for papersを各方面に発しており、この大会の実現と成功に向けて全力を傾けなければならない。もちろん、本研究を推進する四人のメンバーは、学術大会の運営に関与するのみならず、ぞれぞれ研究発表を行う予定である。それ併行して、最終年度である2024年の第四回学術大会に向けての準備を開始しなければならないのは言うまでもない。 本研究とイスラーム研究との連関についてはすでに起したが、次年度からはこの連関を更に重視したいと考えている。具体的には、フランスのイスラーム研究の第一人者クリスチアン・ジャンベ教授との面談(2023年5月)、そして、ジャンベ教授の明治大学への招聘(2024年度春学期)である。 第三に、Journal of East-Asian Philosophyの拡充に努めなければならない。この点について是非とも起しておきたいのは、従来の東アジア哲学研究に欠落していた問題、特に二つ挙げるなら、沖縄問題と満洲問題を本格的に取り上げたいということである。いずれのテーマについても、できるだけ早期に、Journaで特集を組みたいと思っているが、哲学的視点からそれを論じるという試みは、内外を見渡しても殆どなく、しかし、だからこそ、どのような考察が可能なのか、また、どのような執筆者が存在しているのか、ある意味ではゼロからの出発を覚悟しなければならない。
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Research Products
(17 results)