2020 Fiscal Year Annual Research Report
近世宮廷絵師の地方展開・関係、およびそこにみる画壇構造の解明に向けた基礎研究
Project/Area Number |
20H01211
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hiroshima Jogakuin University |
Principal Investigator |
福田 道宏 広島女学院大学, 人間生活学部, 教授 (10469207)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菅原 真弓 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (10449556)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 美術史 / 日本史 / 絵師 / 宮廷 / 中央と地方 / 墓碑 / 絵馬 / 僧位叙任 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、宮廷画壇とその絵師たちの京都以外の地方への展開に焦点を合わせ、京都とそれ以外の地方との関係から画壇構造を探るものである。地方は中央の絵師の作品やその作風を単に享受し、消費する場という、これまでの先入観を取り払って見るなら、宮廷画壇は京都生え抜きの絵師の集合として連綿と続いたのではなく、絶えず京都以外の地方から新たな絵師が供給され、彼らの存在により活性化していた。そして、それが地縁を通じて再び地方に影響を波及させるという双方向、もしくは多方向の関係で成り立っていた。 そこで、地方に残る宮廷絵師の足跡とともに、地方にあって、宮廷絵師と師弟関係を結んだ、もしくは宮廷絵師の門弟と名乗った絵師を探し、その事績を確認することから着手することにした。初年度となる2020年度は、研究代表者のこれまでの研究を踏まえ、地方絵師が僧位などの叙任によって宮廷絵師の(名義貸し的であれ)門弟と記された事例を精査し、ほかにも例がないかを文献史料から探すとともに、都・府・県・市・町・村教育委員会、美術館・博物館等が実施した文化財調査報告など文献を収集し、研究分担者と情報共有を行った。 なお、実地調査に関しては、2020年度は新型コロナ感染症の流行という社会情勢もあって、遠隔地では思うようにできなかったが、感染が下火となった時期を見計らい、実地調査で遠隔地3回、隣接する島根県1回の調査出張と、出張申請を行わない広島県内での予備的調査複数回を行った。回数は少ないものの、宮廷と関係を持った地方絵師、宮廷絵師の門弟を名乗った地方絵師、および地方における宮廷絵師の足跡の調査を行い、一定の収穫を得ることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
上記のように実地調査が思うに任せなかった点は否めないが、その分、文献調査に注力し、概ね順調と言える。 実地調査で遠隔地では10月31日・11月1日京都国立博物館「皇室の名宝展」・京都市京セラ美術館「京都の美の250年」展で宮廷絵師の作品調査を行い、大津市歴史博物館では2021年2月からの「芭蕉翁絵詞伝と義仲寺」展への協力依頼を受け、打ち合わせを行うとともに、狩野正栄作品の共同調査を行った。11月6日・7日には敦賀市立博物館・大津市歴史博物館・あべのハルカス美術館の3館をまわり、敦賀では宮廷絵師の作品を多数出品の「ふつうの系譜」展の里帰り展、大阪ではやはり宮廷絵師の作品も含む「奇才!」展、大津では展覧会に向け、実作品の追加調査・撮影などを行った。11月28日から30日、新潟市歴史博物館ほか新潟市内で調査を行った。新潟市歴史博物館「五十嵐浚明展」は新潟出身・在住の絵師浚明の初の回顧展だが、京都・大坂・江戸の儒学者と交流し、宮廷から僧位にも叙され、天皇の下命で作品を制作したといい、地方出身・在住の絵師としては、かなり早い事例である。市内で関連展示なども調査した。島根県では、宮廷側の記録に1814年、宮廷絵師鶴沢探泉の門人として法橋に叙されたことが記される銀山在住の蘆葉、および銀山代官所に近い城上神社天井画を描いた梶谷園隣斎守休について、その足跡を示すものがないか大田市三瓶町周辺で実地調査を行った。作品や墓などの所在は確認できなかったが、後日、これとは別に個人所蔵の守休作品1点を調査する機会を得た。予備調査では、2020年度に調達した赤外光カメラ・および3Dスキャナの操作確認もかねて、往来が可能な広島県府中市・広島県呉市豊町で実地調査を行った。 また、文献調査では各地の文化財調査報告書を収集し、その一部を検討し、スキャンも行った。また文献史料を複写で取り寄せ検討に着手した。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は上記実地調査のうち未了の分を継続するとともに新規の調査を行いたいと考えているが、現今の情勢では遠隔地への実地調査旅行が難しいことあり、並行して行う予定だった文献史料による地方と宮廷の関係性の調査を行っている。また、2020年度中に兵庫県丹波篠山市に幕末の宮廷絵師長野祐親が明治初年に実父のために建てた墓が現存するとの情報提供があり、4月24日・25日に実地調査を行う予定だったが、緊急事態宣言のため延期せざるを得なくなった。今後、状況をみて実施する予定である。なお、長野祐親について文献調査を行い、丹波の郷士の出で、地下官人の養子となったことを示す記録などを確認した。また2020年度に調査を行った石見の絵師のうち梶谷守休に関しては、昨年度ではなく、そのまえに行った予備調査の写真を見返したところ、大田市三瓶町志学のひとだとわかり、同地には墓もあるようなので、感染拡大状況が落ち着き次第、改めて実地調査を行うつもりだが、それまでの間は他出せずにできる文献などの調査をさきに行うことにする。
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