2022 Fiscal Year Annual Research Report
近世宮廷絵師の地方展開・関係、およびそこにみる画壇構造の解明に向けた基礎研究
Project/Area Number |
20H01211
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hiroshima Jogakuin University |
Principal Investigator |
福田 道宏 広島女学院大学, 人間生活学部, 教授 (10469207)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
菅原 真弓 大阪公立大学, 大学院文学研究科, 教授 (10449556)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 美術史 / 日本史 / 絵師 / 宮廷 / 中央と地方 / 墓碑 / 絵馬 / 叙任 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、中央と地方の相互関係という視角から、宮廷画壇と宮廷絵師たちが、京都以外の地方にどのように展開したかに焦点を合わせ、そこから画壇構造を探ろうとするものである。 中央と地方の関係というと、多くの場合、中央から地方への単方向の影響関係という先入観でとらえがちである。しかし、これまでの調査から得た感触としては、地方は中央の絵師の作品や作風を享受・消費するだけの場ではなく、双方向の関係としてとらえるべきとの推測があり、それが本研究の端緒でもあった。まして、近世は江戸や京、大坂だけでなく、各地に複数の中央が散在する時代である。実際に宮廷絵師の出自や営みをみると、彼らは宮廷及び京都のみに生きるのではなく、地方との関係を有していることが多い。すなわち、宮廷画壇は京都生え抜きの絵師の集合体ではなく、絶えず地方から新たな絵師が供給され、彼らの存在により活性化し、地縁を通じて再び地方に影響を波及させるという関係で成り立っていた。 そこで、本研究ではのちに宮廷絵師となる絵師の出身地方における足跡、宮廷絵師が地方に残した事績とともに、地方にあって宮廷絵師の門人と名乗った絵師について作品と史料の両面から行っている。また、絵師以外にも、それらの地方と、京都や宮廷との接点となったと考えられる領主や、身分的周縁に位置づけられる神職・僧侶、学者などとの人的関係についても併せて調査を行っている。 2022年度も、コロナ禍の影響で実地調査が思うにまかせなかったため、文献調査・情報収集に注力しつつ、機会を見つけて岩手県盛岡市・一関市、山形県米沢市での実地調査を行った。なお、繰り越しによって2023年度に持ち越した実地調査には、大分県中津市・宇佐市、福岡県福岡市、石川県小松市・加賀市・金沢市、兵庫県姫路市、岡山県津山市・真庭市久世などでの調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
若干の実地調査が可能になってきたが、いまだコロナ禍以降、公開の取りやめを行っている所蔵先もあり、それは可能になるまで待つほかはない。ただし、文献調査、整理・分析に注力できた。それはたとえばこれまでに調査した未公刊の古記録も含め、翻刻やその検討も行うことができ、作品の検討も行った。 実地調査に関しては、22年度中に行った岩手盛岡・一関、山形米沢では各地の大名家御絵師などについて調査した。これまで京都と物理的な距離が近い西日本を中心にみてきたが、東北地方にも近世後期ではあるが四条派の門人がいることなども確認できた。23年度に繰り越した分では、石川県小松市・加賀市・金沢市・七尾市では加賀前田家の御絵師で宮廷絵師鶴沢家の門人として僧位に叙された佐々木家歴代の事績を中心に、ほかに類例がないか、絵馬などの作品がないかも調査した。近世初頭の長谷川等伯の出身地でもあり、京都との物理的・心理的な距離の近さ、人的交流を考えるうえでも今後継続的に調査を要することが確認できた。姫路市では宮廷絵師狩野永納の作品が残る円教寺ほかで調査、津山市・真庭市久世の調査は22年度に繰り越した21年度分の広島県府中市での調査の結果、明らかになった備後片山家の守規の兄弟のひとりが久世に移り住んだことから改めて調査した。 福岡県福岡市、大分県中津市・宇佐市での調査は21年度以前から引き続き、海北友倩についての調査で、中津の寺院所蔵の代表作が数年ぶりに公開されることになり、直接調査が可能になったため実施し、作品以外にも領主である中津小笠原家(のち安志に転封)や小倉小笠原家と海北友松の子友竹との姻戚関係についてご住職のご教示により知ることができ、墓所についても所在を確認できた。当日の天候や3Dスキャナ・拓本道具などを持参していなかったこともあり、後日の再調査について依頼し、墓所所在寺院へのご紹介についても承諾を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は新規の実地調査を行うことが出来たものもある一方で、21年度以前から準備を進めていながら実施できていないものもあり、うち一部は23年度に繰り越して実地調査を行った。また、昨年度にも書いたとおり、これまでの実地調査の限られた日数の調査ではすべて調査することが出来ず、継続の必要のあるもの残されている。 そこで優先順位をつけて実地調査を行うことにしたが、実地調査に関しては今後、現時点で成果が確実な分を中心に見ていくことにしたい。 特に大分県中津市や周辺地域の海北友倩に関する調査は、文献の収集も或る程度、進んでいるため、作品・墓碑の調査を早い時期に行ないたい。作品調査、墓碑などの3Dスキャン・拓本や、赤外線カメラでの調査には調査協力者が不可欠のため、引き続きアルバイト雇用を行うなど作業効率を上げることも行っていきたい。
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