2020 Fiscal Year Annual Research Report
Measuring the cognitive and non-cognitive abilities of normal-hearing and hearing-impaired children in mathematical communication
Project/Area Number |
20H01750
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
江森 英世 大谷大学, 教育学部, 教授 (90267526)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
森本 明 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (60289791)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 数学的コミュニケーション / 聴覚障害児教育 / 数学教育 / 認知的-非認知的能力 / 創発 |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度の研究では、研究計画に基づき、目標(1)「事象における問題を数学的に捉える局面での数学的コミュニケーション能力(認知的能力)の同定と特性の分析」に対して、従来の研究方法論の限界を超越するために、新たに仏教知識論における無形象知識論と有形象知識論を研究の方法論として採用して研究を進めた。メッセージを解釈する知識が「形象」を持つのか否かという有形象・無形象知識論を研究の方法論とすることで、「反省的思考や反照的思考における『見えないものを見る』ことがいかに可能となるのか」という研究課題の解決に取り組んだ。 メッセージ(=対象)という外在する物理的刺激物を人がどのように知覚し認識するのかという課題に対して、私たちはこれまで、外部の刺激を受け取ることによって頭の中に「表象」を描き、その表象が外部の刺激物に代わって思考の対象となるという「知覚と表象」という考え方に立って考察を進めてきた。しかし、知覚と表象を前提とする「メッセージ解釈の主観性」という考え方は、事例解釈が事例ごとに限定されるという方法論の限界をもたらし、知識が知覚や表象の形成にいかに働いているのかという考察を支える基礎理論とはなり得なかった。こうした方法論の限界を超越するために、2020年度の研究では、知識が「形象」という視覚像を生みだすと考える有形象知識論と、外在物の知覚が「表象」という視覚像を生みだすと考える無形象知識論とを折衷させる研究方法論を構築した。 【研究の結論】 (1) 無形象知識論に基づく反省的思考:反省的思考と呼んだ対象の認識作用の方向が、受け手から対象へと向かうことは、本論文の考察では、無形象知識論により説明が可能となった。(2) 有形象知識論に基づく反照的思考:反照的思考と呼んだ対象の認識作用の方向が、対象から受け手へと向かうことは、本論文の考察では、有形象知識論により説明が可能となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、コロナ感染症の蔓延で、授業研究や調査研究に関する研究協力校である京都市立嵯峨中学校をはじめ全国の小中学校が休校に追い込まれる事態になった。こうした事態は、研究計画に大きな影響を及ぼすことになったが、その一方で、職場である大学の勤務も在宅によるものとなり、そのことで、理論的な研究に専念することができた。そのおかげで、これまで研究方法論的に行き詰っていた「知覚と表象」という研究方法から、仏教知識論を取り入れた新たな研究方法論の構築に一気に道が開けてきた。2020年度の研究の進捗状況は、10数年間、解決に至らなかった反省的思考と反照的思考の対象の認識作用の方向性の問題を解決できたという点で、予定以上の進捗であったと総括できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究の目的は、健聴児ならびに聴覚障害児の数学的コミュニケーションにおける認知-非認知プロセスとそれらの相補性を踏まえたコミュニケーション能力の実相を捉えたうえで、その能力を測定する方法を開発することである。ここで、これまで認知的プロセスの解明を中心に行ってきた研究に「非認知的プロセス」を追加する理由は、過去5年間の研究の成果として、聴覚障害児の「聞こえないものを聞く能力」における非認知的思考プロセスの役割の重要性が見えてきたことによる。そしてさらに、健聴児の研究を通して見えてきた「見えないものを見る能力」ならびに「聞こえないものを聞く能力」という非認知的思考に関わる能力が、新しいアイデアを生み出すコミュニケーションの創発性に大きな役割を果たすことが分かってきたことによる。本研究では、こうした「見えないものを見る能力」や「聞こえないものを聞く能力」を含め、もう一度、健聴児と聴覚障害児の数学的コミュニケーションにおける認知-非認知的思考プロセスを支える能力を分析し考察することによって、数学的コミュニケーション能力の実相を捉え、その能力を測定する方法を考える。 2020年度の研究で、「見えないものを見る力としての数学的コミュニケーション」という課題に多くの成果を残すことができたので、2021年度以降の計画では、予定通り単年度ごとの目標(2)から(5)を実行していくことにする。なお、2020年度の研究において見えてきた知覚と知識の問題における経験の重要性については、当初の研究計画に追加する形で、さらに研究を推進していくことにする。
|
Research Products
(3 results)