2020 Fiscal Year Annual Research Report
自己の諸側面から見るロシア・ユダヤ人の民族間関係:パレスチナ紛争に至る前史として
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20H04418
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
鶴見 太郎 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (00735623)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ユダヤ人 / ロシア帝国 / 多面的自己 / アイデンティティ / ナショナリズム / ポグロム / 記憶 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年は、主に以下の2点の課題に取り組んだ。
1つは、著書『イスラエルの起源』としてまとまった、ユダヤ人の自己の諸側面の関係性に着目した理論的整理を行った。例えば、ロシア・ユダヤ人の場合、ユダヤ人としての側面とロシア人としての側面を持つ。どのロシア・ユダヤ人も同じようにそれらの関係性を考えたり、考えさせられたりしているのではなく、状況などに応じても異なっている。それらを、いくつかのタイプに分け、特にこれまで注目されてこなかった相補型というタイプについて詳細に論じた。これは、ロシア・ユダヤ人のなかで、ロシア人としての側面とユダヤ人としての側面が相互に補強しあっている状態を指す。本書で注目した自由主義のロシア・ユダヤ人は、後進的なロシアにおいて、ユダヤ人は西欧知や経済的資源によって貢献する存在であると考えた。つまり、ロシアはユダヤ人を必要としているし、ユダヤ人はその特性をロシアで活かすことがでるので、やはり舞台としてのロシアを必要としている。ロシア・ユダヤ人という存在は、そのような状況を想定したうえに立つため、ロシア人としての意識もユダヤ人としての意識も、単に両立させるだけでなく、双方を補強しあうのである。そのため、ユダヤを強調することは、ロシア愛国者としての側面も強化するし、ロシアに関心を向けるほどに、ユダヤ人としての意識も強化される。
もう1つは、ロシア帝国崩壊後の内戦期にウクライナを中心に頻発したポグロムの記憶が、パレスチナにおいていかに影響を与えたかについての検証をさらに進めていった。部分的には上記著書で発表することになった。ロシア語の雑誌に加えて、ヘブライ語の雑誌(世界シオニスト機構の機関誌『ハオラム』や労働シオニストの機関誌『ハポエル・ハツァイル』)の記事を分析していった。時期としては、パレスチナで反シオニスト暴動/反乱が発生した1920年と1921年に着目した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナウイルスのため、海外渡航や海外からの研究者の招聘ができなかったため、計画の該当部分は一切進まなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
オンラインで閲覧できる新聞を中心に分析を進め、先行研究を多く渉猟する時間を当初の計画よりも増やすことで、海外とのつながりが希薄になるなかでの研究の在り方を模索したい。
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