2021 Fiscal Year Annual Research Report
Junctures of Theatrocracy and Democracy: Interdisciplinary Research on Theatricality and Politica
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21H00483
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
平田 栄一朗 慶應義塾大学, 文学部(三田), 教授 (00286600)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北川 千香子 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 准教授 (40768537)
針貝 真理子 東京藝術大学, 音楽学部, 准教授 (00793241)
三宅 舞 慶應義塾大学, 文学部(三田), 講師(非常勤) (50896701)
寺尾 恵仁 北星学園大学, 経済学部, 講師 (30896684)
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Project Period (FY) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 演劇学 / 政治学 / 芸術学 / 文化研究 / ヨーロッパ研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
シアトロクラシーとデモクラシーの新しい関係性を探求する本研究は4年計画の初年度にあたり、欧米で議論される同関係の基本的な考え方を把握すると同時に、国内外の政治学者や演劇学者などとの研究会や講演会を開催し、その成果を研究代表者が論文で発表した。具体的な成果は次の4点にわたる。 1.演劇学者と政治学者との議論を通じて、オーストリアの政治学者オリヴァー・マーヒャルト(ウィーン大学政治学教授)が提唱する「ポスト基礎付け主義」の意義とシアトクラシーに関連する研究会を4回実施し、そのうち2回の研究会では、政治学者の玉手慎太郎氏(学習院大学教授)と田畑真一氏(東京大学)が本研究テーマに関するzoom講演会を行った。 2.ドイツ・ボーフム大学の演劇学者ヨルン・エッツォルト教授とメディア学者フリードリヒ・バルケ教授を本研究主催のzoom講演会に招き、演劇と政治に関する講演を行なった。エッツォルト教授はアフリカの政治問題がヨーロッパの政財界にも原因があるとすることをテーマにした舞台作品について、バルケ教授にはSNSなどのヘイト発言の問題が第一次世界大戦前後の人々の言説に通ずることを、カール・クラウスの戯曲『人類最後の日々』を例にして論じた。一方、研究代表者はボーフム大学主催によるzoom研究会で能楽の成立の背景にある政治的状況について講演を行なった。 3.本研究メンバー全員が参加してドイツで現在議論されている民主主義論の知識を深める研究会を4回実施した。ドイツの代表的な民主主義研究者ハンス・フォアレンダーの基本書"Demokoratie"を取り上げて民主主義の歴史的展開に関する専門的知識を得た。 4.研究代表者は、プラトンが『法律』において批判的に言及したシアトロクラシーとデモクラシーの関連を、欧米の新しい研究成果を踏まえて網羅的に説明する論文を研究雑誌『藝文研究』に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時に行なった研究計画をおおむね実施することができた。当初の計画では、1.政治学者と演劇学者が民主主義と演劇の関連について議論すること、2.ボーフム大学の演劇学者などと講演会や討論会を実施すること、3.民主主義に関するドイツ語の入門書について議論する研究会を実施することであったが、いずれも実施することができた。 これらの研究計画を踏まえて研究代表者が「シアトロクラシーとデモクラシー:自由と舞台芸術の視座から」という論文を2021年12月に論文集『藝文研究』に発表した。シアトロクラシーとデモクラシーという二つの概念は演劇と民主主義との関連を示すものあるが、この二つの概念をプラトンは『法律』で批判的に言及した。プラトンによる両者の関連と、両者に関する批判的な見解は近年の欧米の人文社会学研究において批判的に受容されているが、上記の論文ではこの批判的受容について網羅的に説明し、民主主義と舞台芸術はプラトンの批判では説明できない積極的な意義があることを述べた。このような見解は日本語の研究では皆無であり、演劇と民主主義の関係をシアトロクラシーの文脈で理解する際の一定の指針をもたらすことができたと考えている。 本研究メンバーはこの研究成果を踏まえつつ、これをさらに発展させた成果を見出す機会を検討している。その一つは2022年6月に開催予定の日本演劇学会全国大会において演劇と民主主義との関連について本研究メンバーがシンポジウムを実施することであるが、この具体的な内容について2021年12月と2022年3月の研究会において検討した。 当初の研究計画をほぼ実施し、また次年度に向けた具体的な研究計画も立てることができたことから、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までの進捗状況で記したように、本研究メンバーは次年度に当たる2022年度の研究計画を具体的に立てて、実行に移しつつある。その一つが先述の2022年6月開催予定の日本演劇学会全国大会でパネルセッション「新しい民主主義論と演劇」である。このセッションで本研究メンバーが5つの研究発表を行うが、その際、最新の研究成果を踏まえつつ、演劇と民主主義との関係を従来と異なる見取り図で示し、舞台芸術作品が民主主義について考える際に芸術固有の特徴を発揮できる可能性について提案し、パネルセッションに参加する研究者と議論する予定である。 また2021年度に行なった研究計画を継続して推進する。具体的には3つの領域にわたる。1.政治学者による民主主義論の講演会を実施し、演劇と政治をつなぐ概念「フィクション性」について議論する。民主主義が実際に機能するには、多くの人々がその意義を信じるという想像力が働かないといけないが、この想像力をフィクション性に例える議論が政治学で行われており、これについて講演会で議論する。2.ボーフム大学の研究者による演劇と政治に関する講演会を開催し、ドイツ語で書かれた民主主義論に関する研究会を行う予定である。3.演劇の実践家や批評家を本研究会に招き、演劇実践の側面から演劇と民主主義との関連を議論し、新たな見地を見出すことを目指す。 これらの研究の成果を研究代表者が発表論文で報告する予定である。同論文では、演劇鑑賞とその議論がどのような点において民主的であるかについて具体的な事例から説明する。また研究分担者が2023年3月に開催予定のドイツ演劇学会主催の研究発表会において2021年度の研究成果を踏まえた口頭発表を行う予定である。
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